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あなたのとりこ 674 [あなたのとりこ 23 創作]

「要するに、確かにあの政党は熱烈な信奉者と強靭な後援団体を組織しているのかも知れないけど、結局はその信奉者と後援団体は全国的な、と云うか、全大衆的な広がりのあるものではなくて、ごく一部の人間と組織の塊に過ぎないと云う事なんじゃないかな」
「いやいや、あの政党は陰でこの国のあらゆる分野に根深く浸透して、色んな謀を裏で秘かに指導している、と云っても決して云い過ぎではないと思うよ」
「そうかなあ。・・・」
 頑治さんは首を傾げるのでありました。「それは誇大妄想と云うのか、そう云われるのが気に入らないのなら、買い被り過ぎ、と云うものじゃないかな」
「いいや、そんなに楽観的なものじゃないよ」
 均目さんは真顔で頑治さんを見つめるのでありました。「唐目君がそう考えているのは、あの政党の怖さを未だ知らないか、巧妙なカモフラージュに騙されているんだよ」
「でもそうなら、さっきも云ったけど、もうとっくにこの国で政権を奪取していてもおかしくないんじゃないかな。しかし現実にはそうなっていないと云うのは、考えている程誇大な組織ではなくて、矢張り全体から見れば少数派だと云う事になりはしないかなあ」
「そうよね。そう云われてみれば確かに、均目君はあの政党の事を過大評価しているような気がするわ。と云うよりは過大に恐れている、と云うべきかもしれないけど」
 那間裕子女史が頑治さんの意見に同調するのでありました。
「そう云うのなら片久那制作部長によく聞いてみれば良い」
 均目さんは形勢不利と踏んで、少しつんけんした調子で云うのでありました。
「均目君はあの政党に何か実害を受けた事があるの?」
 那間裕子女史が頑治さんの酌を猪口に受けながら訊くのでありました。
「いや、俺は別にこれと云ってないけど、片久那制作部長は昔の学生運動の中で、様々嫌な思いをさせられたし、実害を蒙ったと聞いているよ」
「じゃあ、つまり均目君は片久那さんの学生時代の話しを色々聞いて、その影響であの政党が嫌いになったと云う事かしら?」
 那間裕子女史はどことなく均目さんを軽んじるような云い草をするのでありました。均目さんは咄嗟に何か云い返そうとするのでありましたが、那間裕子女史に軽んじられているらしい事に激してか、口の外に出すべき言葉を急には何も思い付かないようで、悔しそうな顔で唇を引き結んだ儘、自分のビールグラスを握り締めているのでありました。

 袁満さんが欠伸をするのでありました。頑治さんと均目さん、それに那間裕子女史も参加してのこの手の会話には殆ど無関心なようで、畢竟放ったらかしにされているような按配で、竟々欠伸の一つも出て仕舞うと云うものでありましょうか。
「そろそろお開きにしましょうか」
 頑治さんが袁満さんを思い遣ってそう提案するのでありました。
「未だ全然飲み足りていないんだけど」
 那間裕子女史が目の前の猪口を差し上げて見せるのでありました。
(続)
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