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あなたのとりこ 669 [あなたのとりこ 23 創作]

「藪から棒で、本当に恐縮なんですが、結局そう云う結論になったんです」
 袁満さんがようやく気分を立て直して均目さんの後から続けるのでありました。横瀬氏は怪訝そうな目を袁満さんに向けて、暫く言葉を発しないのでありました。
「その経緯をちょっと説明してくれないかな」
 横瀬氏は少しの間黙った後でそう返すのでありました。
「業績不振を云い訳に、せっかく春闘で獲得した我々の賃金やら待遇やらの成果を、社長と土師尾常務は簡単に反故にしようとしたからです」
 袁満さんが陰鬱な声で説明し始めるのでありました。「賃金は春闘の前の状態に戻すし、勿論年齢別同一賃金の体系も崩すし、果ては制作部を廃止してその後は他社商品中心の営業で遣っていくと云う提案を、ここにきて出し抜けに持ち出してきたんですよ」
「それでは約束が違うなあ」
 横瀬氏は舌打ちするのでありました。「春闘の妥結結果を何と思っているのだろう」
「その通りです」
 袁満さんが一緒に憤慨して見せるのでありました。
「そんな無茶な事を一方的に通告してきたのかい?」
「いや、向こうから社内の全体会議を開きたいとの要望があって、その中でそう云う提案と云うのか、宣告と云うのか、そう云うものがなされたのです」
「社内の全体会議、ねえ」
 横瀬氏は腕組みをして首を傾げるのでありました。「社内の全体会議とか云う閉じられた場で扱う議題じゃなくて、それは労働問題として扱うべきものだろうに」
「そう思ったのですが、・・・」
 袁満さんが語尾を濁すのでありましたが、目は向けないまでも、袁満さんの気持ちは均目さんの方に向いている気配が頑治さんに伝わるのでありました。向こうの持ち出した社内の全体会議と云う体裁をその儘受けるか、それとも労働問題として全総連も巻き込んで組合で受けるかは意見の分かれたところでありましたが、どちらかと云うと均目さんが、その思惑は確とは知れないながらも、自分達の意を社内の全体会議の方に引っ張ったと云う思いが袁満さんにはあるのであります。それはまあ、全くその通りであります。
 袁満さんのそう云う気持ちが判るようで、均目さんは何となく落ち着きを失くして身じろぎ等するのでありました。
「向こうから賃金の改変の提案があった時点ですぐにその全体会議とやらを打ち切って、こちらに一報を入れてくれたら方が良かったのに」
 この横瀬氏の指摘は実に以ってその通りでありますか。
「人員整理とかの話しも出ていたんで、我々としてはちょっと浮ついて仕舞って、適切な対応が出来なかったんですよ」
「人員整理の話しも出ていたのかい?」
 横瀬氏は呆れたように云うのでありました。
「ええ、向こうの提案に、制作部の廃止、と云うものがありますから」
(続)
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