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あなたのとりこ 664 [あなたのとりこ 23 創作]

 しかしまあ、こう云う無意味な話しをダラダラ続けてこの酒宴を態々長引かせるのは叶わないから、頑治さんは話しを軌道に戻そうとするのでありました。
「組合を解散するとなると、先ずは一応甲斐さんの思いを聞き質した上で、解散と決定したら、全総連にその旨報告しなければなりませんよね」
「それはそうだね。信義の上からも、組合の事を放ったらかしにして、この四人がスパッと会社を辞める訳にはいかないよなあ」
 袁満さんが軌道修正に乗ってくるのでありました。
「まさか甲斐さんが組合活動を続ける筈がないし、組合解散は間違いない事だろうけど、その時はどういう手続きが要るのかしら?」
 那間裕子女史が猪口を置いて袁満さんを見るのでありました。頑治さんは空かさず徳利を取って小さく振って中身があるかどうかを確かめてから、那間裕子女史の猪口に日本酒を注ぎ足すのでありました。那間裕子女史はちらと自分の猪口に視線を向けたけれど、それはさて置いて、と云う感じですぐにまた袁満さんの方に目を戻すのでありました。
「それはその旨全総連に報告した時に、教えてくれるんじゃないですか」
「面倒な手続きとかなくて、すんなり解散できるのかしら」
「いやあ、バックに付いているあの政治政党の事だから、面倒な手続きなんかより以前に、何だかんだと難癖を付けたり、宥めたり賺したり脅したり誉めそやしたりのあの手この手を遣って、何とか解散させないようにしようとするんじゃないのかな」
 これは均目さんの言でありました。
「だって当のあたし達が会社を辞めて、向後贈答社とは無関係になって仕舞うんだから、思い止まらせようとする事なんか出来ないんじゃないの?」
 那間裕子女史が反論しながら、先程頑治さんが酒をなみなみ満たした猪口を徐にまた取り上げて口元に運ぶのでありました。
「だから、辞めないで闘争を貫徹しろ、とか指嗾するんじゃないのかな」
「そんな事云ったって、あたし達が辞めるのは全くの自由だし、その個人の選択を妨害する権利なんか全総連にはないじゃないの」
「でもそこがあの政党の狡猾なところで、これ迄献身的に何くれとなく協力をしたり、各方面に対しても様々便宜を図ってきた恩義とか、春闘の時もその前の組合結成迄も色んな協力を惜しまなかった、総連加盟の他の社の労働組合に対する情義はどうなんだとか、義理と人情とかに絡めて一種の恫喝をしてくるような気がするなあ」
「何それ。まるでヤクザみたいじゃないの」
 那間裕子女史は信じがたいと云った表情をして見せるのでありました。
「その辺の手練手管なら幾らでも保有しているよ、あの政党は。そう云う遣り口で長い歴史をしたたかに、と云うのか狡猾にと云うのか、生き抜いてきた政党だしね」
 均目さんは自得するように何度か頷くのでありました。
「しかし全総連はその政党そのものではないし、その政党と関わりはあるとしても、別組織だよ。均目君の今の論は、坊主憎けりゃ袈裟まで、と同じ類いじゃないの?」
(続)
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