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あなたのとりこ 660 [あなたのとりこ 22 創作]

「そこ迄インチキ臭いヤツに会社を任せておく社長も社長ですよ」
 袁満さんが話しを引き取るのでありました。「どうせ社長は紙商事の方は兎も角、贈答社の方は大して思い入れもないでしょうから、仕方がないですけどね」
 そう云われて社長はムッとした顔をするのでありましたが、まあここは敢えて聞き流しておこうと云う風に、袁満さんから目を逸らせて口をモグモグさせながら、抗弁を堪えている様子をそれとなく伝えようとするのでありました。
「じゃあ、序に聞いておきたいんだけど、他には土師尾君に対して何か不満に思っている事とか、まあ、私に知らせておきたいような事はないのかな?」
「今更あれこれそれを云っても、会社を辞めるんだから云い甲斐もないですけどね」
 袁満さんはソファーの背凭れに背を引くのでありました。
「まあそう云わずに、今後の参考に聞かせてくれないか」
「辞めていく自分達が土師尾常務の事を色々告げ口する行為は、潔くないですからね」
 袁満さんは背凭れに背を避難させた儘で云うのでありました。
「そんな風には思わないから、是非聞かせてほしいな」
「ああそうですか」
 袁満さんは無関心そうにつれなく遣り過ごそうとするのでありました。
「どうしてまた、社長は土師尾さんの事をそんなに知りたいのですか?」
 那間裕子女史が社長の土師尾常務の出鱈目振りを聞き出したい魂胆に、ちょいとばかり興味を示すのでありました。恐らく社長も土師尾常務に全幅の信頼を置いている訳ではなくて、何となく判ってはいた事ながらどこか胡散臭く感じているのでありましょう。この社長と土師尾常務の間の隙間風に、那間裕子女史も興味をそそられたのでありますか。
 それにひょっとしたら社長は土師尾常務の弱みを握る事で、彼の人に向後遣りたい放題をさせないで、その給与や待遇にも渋ちんに対応しようと云う目論見があるのかも知れません。まあ、土師尾常務に対する様々な牽制の材料としても、ここは一つ、彼の人のこれ迄の遣りたい放題振りを是非にも聞いておきたいところでありましょうか。
 何だかんだで、四人は一時間以上社長室に引き留められていたのでありました。その間四人も土師尾常務の社員に対する酷い遣り口やら、自分だけが得をするような無軌道な労務管理振りやら、その人徳のなさとか、前に会社にいた片久那制作部長に対する卑屈なまでの頭の上らなさとかを、この際だからと縷々社長に告げ口するのでありました。
 でありますから、四人は辞表を提出したと云う重苦しい陰鬱な心持ちと云うよりは、多少晴れ々々とした気持ちで社長室を後にするのでありました。鬱積していた愚痴をようやくここで吐き出すことが出来たと云うところでありますか。

 三階の事務所に戻ると、甲斐計子女史だけが居るのでありました。土師尾常務は未だ出社してこないし、日比課長は早々に営業回りに出たようであります。甲斐計子女史は四人が戻って来るのをチラと見て、別に話しかけるでもなく、全く無愛想な顔でまた下を向いて、自分の仕事に没頭している風を装うのでありました。
(続)
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