SSブログ

あなたのとりこ 656 [あなたのとりこ 22 創作]

 袁満さんは妙な非生産的理屈を考え出すのでありました。「じゃあまあ、那間さんが現れたら辞表を出すタイミングを相談しよう」
 その袁満さんの言葉を潮に、均目さんはマップケース向うの制作部スペースに退散するのでありました。袁満さんも自席に帰り、頑治さんも伝票入れを覗いて、そこに発送伝票が何も無い事を確認してから一階の倉庫に下りて行くのでありました。
 駐車場の前に日比課長が如何にも手持無沙汰そうに、両手をズボンのポケットに入れて煙草を口に銜えて立っているのでありました。
「もう相談は終わったのかな?」
 頑治さんを見付けて日比課長はそう声を掛けるのでありました。
「相談と云う程の事はないですが、もう話しは終わりましたよ」
「じゃあ、上に行っても邪魔にはならないかな」 
「別に居て貰っていたとしても邪魔にはしませんでしたよ」
 頑治さんがそう応えると日比課長はどう云う心算かニヤリと笑って、銜えていた煙草を道に捨てて靴で吸殻を踏みつけてから三階の事務所に戻っていくのでありました。つまり先程は、三人の話し合いが自分とは無関係で、寧ろ自分が居ない方が何かと好都合なのであろうと気を利かせたのか、或いは気まずかったからは別として、事務所を出て行ったのでありましょう。で、所在なく駐車場の辺りで暇を潰していたのでありましょう。
 頑治さんは日比課長の思惑をそう判断してから、ふと駐車場内に停車している車に目を遣るのでありました。そこには社長の白いクラウンが停まっているのでありました。と云う事は、先ず間違いなく社長はその日はもう会社に来ていると云う事であります。頑治さんは急いで三階の事務所に引き返すため階段を駆け上がるのでありました。
「社長はもう出社しているみたいですよ」
 頑治さんは袁満さんに急くような口調で告げるのでありました。
「そうなの?」
 袁満さんは少しの驚きを見せるのでありました。「こんなに早く来るのは珍しいな」
 この頑治さんと袁満さんの遣り取りを漏れ聞いて、均目さんがまたマップケースの陰から押っ取り刀で姿を見せるのでありました。
「何だ、社長はもう来ているんだ」
「車が駐車場にあるからね」
 頑治さんが頷きながら云うのでありました。
「でも那間さんの方がまだ来ていない」
 袁満さんが顔を顰めるのでありました。
「全く、肝心な時に困ったものだな、那間さんも」
 この会話に日比課長が、無関心を装いながらも聞き耳を立てているのでありました。
 そうこうしている時にグッドタイミングなのか全くそうではないのか、那間裕子女史が扉を開けてこそこそと事務所に入って来るのでありました。
「あら、そんなところで三人揃って何をしているの?」
(続)
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。