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あなたのとりこ 636 [あなたのとりこ 22 創作]

「どうする、唐目君?」
「要するに賃金が二十パーセントカットで、住宅手当も出さないし、甲斐さんと袁満さんと均目さんは会社を辞めろと云う事ですね、社長と常務の考えは?」
 頑治さんは先の袁満さん同様、社長の提案を整理するのでありました。
「そう云う事になる」
 土師尾常務が厳めしい顔で断固云うのでありました。そんな土師尾常務を尻目に頑治さんは社長の顔を凝視するのでありました。
「その考えを変える余地は全くないのですかね?」
「一切ない。君達が受け入れるか受け入れないか、どちらかを選択するだけだ」
 ここでも土師尾常務がどうしてもしゃしゃり出て来るのでありました。
「常務に訊いているんではなく、社長に訊いているんです」
 頑治さんは全く目を動かす事なく一直線に社長の怯みを湛えた顔をじっと見た儘で、しかし言葉は自土師尾常務に向けて強く云うのでありました。
「基本的には私も土師尾君と同意見だ」
 社長はたじろぎながらもそう呟くのでありました。
「基本的だか応用的だかは知りませんが、つまり先程念を押したような考えを、全く変える気はないと云う事ですね?」
 頑治さんが目を動かさないでそう訊くと、社長はもじもじと身じろぎしてからふと頑治さんから目を逸らして空咳き等するのでありました。そんな社長の窮地に先程の頑治さんの一言に怖じたのか土師尾常務は何時もの出しゃばりを封印して、何の助け舟も出さないのでありました。ま、肝心な時にてんで頼りにならない御仁でありますから。
「残った社員に対しては、賃金面で多少は考慮しても良いとは思うよ」
 社長は気弱そうな小声で諂うように云うのでありました。
「そんな言辞で、それでは残ります、と云うと思うのですか?」
「唐目君も会社を辞めると云うのかね?」
「社長の考えをお聞きした限り、残る気はすっかり失せましたね」
「辞めると云うのなら仕方がないな。それじゃあ甲斐君はどうするかね?」
 社長は甲斐計子女史に視線を向けて、残るか去るか問うていると云うよりは、去ると云う返事をするのを要望するような云い草で訊くのでありました。
「どうせ残ったとしても何だかんだとつれなくされたり厄介事を押し付けられたりして、結局居づらくなって辞めるように仕向けられるのは、今から判り切っているわね」
「じゃあ、甲斐君も辞めるのだね?」
 つべこべあやふやな云い回しはしないでたった一言辞めると云えば事足りる、と云うような喧嘩腰の語調で社長は念を押すのでありました。甲斐計子女史はその社長の情の欠片もない態度が癪に障ってか、何も返事しないでそっぽを向くのでありました。
「日比君はどうするんだ?」
 社長は今度は日比課長に矛先を向けるのでありました。
(続)
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