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あなたのとりこ 631 [あなたのとりこ 22 創作]

 土師尾常務は冷ややかに応えるのでありました。
「あたしも辞めさせられるしね。まあ、均目君が辞めると云い出したのはちょっと目算外れで、営業社員としてこき使いたかったのかもしれないけど」
 那間裕子女史はもうすっかり、生一本で会社を辞めると決めているようであります。

 土師尾常務の目が一瞬頑治さんに向けられて、目が合う寸前にすぐに逸らされるのを認めて袁満さんが土師尾常務に訊くのでありました。
「唐目君はどうなるのですか?」
 自分の名前が出たものだから、頑治さんは土師尾常務の眼鏡の奥の目を改めて見つめるのでありました。体面上土師尾常務は頑治さんの方にちゃんと顔を向けてはいるものの、しかし微妙に視線は逸らしているのでありました。
「唐目君は業務要員として残って貰う心算でいる」
「真っ先に唐目君を辞めさせたかったのではないのですか、唐目君の仕事は特別の専門職と云う訳ではないから、誰でも出来るとか云って?」
「しかしここ当面、倉庫を管理する者は必要だし、唐目君は倉庫の整理整頓とか車庫周りの美化とかその辺の手抜かりはないし、配達や発送業務は慣れているし実にそつがないようだし、そこを鑑みて私が残って貰う方が良いんじゃないかと提言したんだよ」
 これは土師尾常務ではなく社長が云う言葉のでありました。
「製作仕事にしても、何に付け仕事の飲み込みは早いし、気が利くし確実だし、前に居た片久那制作部長の覚えも目出度かったから、会社には必要な人材だと思いますよ。まあ、会社を辞めていく俺が太鼓判を押しても無意味かも知れませんけどね」
 均目さんが頑治さんを持ち上げて見せるのでありました。「常務としては片久那制作部長の覚えが目出度かったから、返って唐目君が目障りなのかも知れませんけどね」
「僕は均目君が思っている程狭量ではない心算だよ」
 土師尾常務は不愉快そうに云うのでありました。
「じゃあ袁満君はどうなの?」
 那間裕子女史が土師尾常務に訊くのでありました。「会社に残って貰いたい人材なの、それとも辞めて貰いたいと考えているの?」
「はっきり云って残って貰ったとしても、袁満君の遣る仕事は、新しい体制で再出発しようとする会社の中には何もないよ」
 この土師尾常務の科白を聞いて、そう云う風に云うだろうと予てから推察は付いていたのでありましょうが、それでも袁満さんは露骨に嫌な顔をするのでありました。
「日比さんはどうなるのですか?」
 袁満さんは自分の事はさて置いて、日比課長の処遇を訊ねるのでありました。
「日比君は今の儘では頼りない限りだけど、もっと奮発してくれることを期待して、残って貰おうとは思っている。まあ一応得意先を何軒か持っている事だし」
 その言を聞いて日比課長は目立たないように眉根を寄せるのでありました。
(続)
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