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あなたのとりこ 630 [あなたのとりこ 21 創作]

「そう云う勿体ぶったまどろっこしい云い回しは抜きにして、要するに誰と誰を会社から追い出す心算でいるんですか?」
「そんな云い方はないだろう。袁満君が考えている程こちらも非情ではないよ。どうして猜疑の目でしか見る事が出来ないんだ?」
「だから!」
 袁満さんは例によって例の通りの土師尾常務の話し振りに苛々して、眉根を寄せて聞えよがしの舌打ちをするのでありました。「そっちの妙な方向に故意に話しをはぐらかさないで、端的に誰と誰なんですか?」
「袁満君は僕の事を一体どういう風に思っているんだ? 僕だって会社の将来像と社員の事を真剣に考えて、僕なりに誠実に対処しようとしているんだ。僕は僧侶と云う顔も持っているんだから、誤解に基づく変なイメージであんまり見ないで欲しいな」
「はい々々判りましたよ。で、誰と誰ですか?」
 袁満さんはげんなりして土師尾常務から目を背けるのでありました。
「俺と那間さんは勿論、辞めさせる口に入っているんでしょう?」
 土師尾常務の本筋から完全に脱線した無関係で身勝手窮まる抗議をこれ以上続けさせないためか、均目さんが言葉を差し挟むのでありました。
「まあ、自分から辞めたいと申し出ているんだから、こちらが辞めるなとは云えないだろうね。それは均目君と那間君の自由意志なんだから」
「何となく無責任な云い草に聞こえるけど、ま、こちらの意志を曲がりなりにも尊重していただけるようだから、その点は感謝しますがね」
 均目さんは土師尾常務に憫笑とも取れる笑いを投げるのでありました。
「勿論あたしにも、辞めないでくれとは云わないんでしょうね」
 那間裕子女史も続くのでありました。
「君達二人が営業社員として会社に残りたいと云うのなら、考えるよ」
「まっぴらご免だわ」
 那間裕子女史は哄笑するのでありました。「残ってくれと懇願されてもお断りよ」
「懇願する気は毛頭ないよ、その点は安心してくれ」
 土師尾常務は薄ら笑いを浮かべて那間裕子女史を挑発するのでありました。
「それは良かったわ」
 那間裕子女史も負けまいとして鼻を鳴らして見せるのでありました。
「序にここで話しておくけど、この二人が辞めると云うのだから、制作部の廃止の話しはこれで自然に解決、と云う事になる訳だな」
 土師尾常務は、これは実に思う壺だと云う風に畳みかけるのでありました。
「本当に自社製品を棄てて仕舞う心算なんですか?」
 袁満さんが念を押すのでありました。
「営業的に見て、制作部を存続させても、もう売れる製品は生み出せないだろうからな。今ある書籍や地図類の版権を売れば、多少は急場を凌げるだろうし」
(続)
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