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あなたのとりこ 623 [あなたのとりこ 21 創作]

「あたしだって辞めさせる心算でいるのよ、屹度」
 甲斐計子女史は自棄気味に断言するのでありました。
「しかし会社の会計仕事を遣れる人は必要なんじゃないかな」
 袁満さんが甲斐計子女史のグラスのウーロン茶の残り具合を見るのでありました。
「でもあたしの遣っている仕事は、誰でも遣れるし、下の紙商事の女の子にでも見させれば済むとか、前に社長は云っていたんだから、それはつまりあたしが、会社にとって掛け替えのない人材だとは、全く思っていないと云う事なんでしょうからね」
「しかし社長の云う通りに、そうは上手くいかないんじゃないかな」
「社長がそう考えているんだから、何とかなるんじゃないの、知らないけど」
 甲斐計子女史にそう云う風につんけんしながら断言されると、袁満さんとしてはその後には強く否定出来ないのでありました。まあ、袁満さんも実は、甲斐計子女史の仕事はそれ程に専門的でも熟練が要る仕事でもないと考えていると云う事でありましょうか。
「とまれ誰を残して誰を辞めさせる心算なのか、それにそうなった後の会社の将来像を、残った者の待遇面の事も含めてどう云う風に描いているのか、それで会社を続けて行けると云う自信とか確証があるのか、明日にでも団交を申し入れてちゃんと訊き質してみると良いんじゃないかな。当面そう云うアクションしかなさそうだし」
 均目さんが結論するように云うのでありました。
「でもそれでは向うの云い分を、こちらが一定程度認めたと云う事にならないかな?」
 頑治さんが反論するのでありました。
「しかし他に、こちらの取れるアクションはないと思うけどね」
「それは均目君が、もう会社を見限ったからそう云う風に云えるんだよ」
 そう頑治さんが云うのは尤もだと云うように袁満さんが横で頷くのでありました。
「でも労働組合案件だと啖呵を切って全体会議をボイコットしてきた以上、何らかのアクションを早々にこちらから起こさないと、何だか迫力に欠ける事になるんじゃないの」
 那間裕子女史はそう云った後に、ほんの少し間を空けて付け足すのでありました。「こう云っているけど、あたしもまあ、見限った方の口だから深刻ではないけどね」
「全総連の方には相談しないで良いのかな?」
 袁満さんが均目さんに訊くのでありました。
「まあ、しなくとも良いんじゃないですか」
 均目さんはどこか好い加減に聞こえるような感じで云い切るのでありました。
「組合案件だと云った以上、全総連に相談して、アドバイスを貰ってからこの後の遣り方を決める方が道理だし、無難なんじゃないの?」
 甲斐計子女史も相談賛成派のようであります。
「じゃあ、明日にでも相談に行ってみるよ。その後に何をするか会合を持つ事にした方が良いかな。まあ均目君ほど簡単に未だ会社を見限っていない俺としては、ちょっとこの後にどういう風に遣るべきか、考えあぐねて仕舞うところもあるからね」
 袁満さんは均目さんへの皮肉を込めたような云い方をするのでありました。
(続)
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