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あなたのとりこ 622 [あなたのとりこ 21 創作]

「土師尾常務は制作部を廃止して、他社商品の取引だけで今後は会社を存続させると云う風に目論んでいるようだけど、それは現実に可能なんだろうか?」
 袁満さんが独り言のように呟くのでありました。
「ちゃんと数字の裏付けや会社の明確な将来像があって云っているんじゃなくて、要はそれでやっていけるかも知れないと云う、一種の勘とフワッとした感触だけだろうなあ」
 均目さんが云うのでありましたが、まあ、そんなところだろうと頑治さんも思うのでありました。綿密さと云うところでは土師尾常務は信用に足らない人でありましょうし。
「現実にそれで遣っていくとして、それにはどんな条件が付くのだろうか?」
 袁満さんは首を傾げるのでありました。
「まあ、今の人数では、売り上げとか利益の規模からして存続出来ないかな」
 均目さんがぶっきら棒に応えるのでありました。
「と云う事は、誰と誰を辞めさせる心算なんだろう?」
「それは結構はっきりしているわ」
 那間裕子女史がここで割り込むのでありました。「あたしと均目君と、それにまあ、唐目君の三人は確実でしょうね。制作部を解体しようとしている訳だから」
「まあそんなところかな。唐目君の真価も、片久那制作部長と違って土師尾常務はまるで判っていないようだから、屹度唐目君も辞めさせる心算だろうな」
「この前からの経緯から、先ず第一番目に業務の俺に目を付けたんだから、俺は当然馘首する人数の内の筈だ。ま、経緯で云えば、那間さんも俺の次に間違いないでしょうね」
 頑治さんは口元に薄ら笑みを浮かべて云うのでありました。
「そうね、あたしと唐目君は先ず間違いないわね」
 那間裕子女史も多少引き攣ったような笑みを片頬に浮かべるのでありました。
「すると残るのは日比さんと甲斐さんか」
 袁満さんが天井に目線を向けながら云うのでありました。
「袁満君も残る方に入るんじゃないの?」
 那間裕子女史がそう云って袁満さんの視線を水平位に戻させるのでありました。
「でも俺は土師尾常務に露骨に嫌われているし、組合の委員長だから土師尾常務にしたら如何にも面倒なヤツだろうし、屹度辞めさせたい方でしょうね」
「まあ、土師尾常務の下ではあくせく働いても、その甲斐は全くなさそうな按配かな」
 那間裕子女史は納得の頷きをするのでありました。
「俺もそんな会社に未練はないですしね」
 袁満さんはそう云って忌々しそうに舌打ちするのでありました。
「誰を残して誰を辞めさせる気なのか、そうやって会社を存続させたとして、残った社員の待遇はどうなるのか、その辺を社長と土師尾常務に訊き質してはどうですか?」
 頑治さんが提案するのでありました。
「そうね、そうすればひょっとしたら甲斐さんの不安も解消するかも知れないわね」
 那間裕子女史がビールジョッキを置いて甲斐計子女史の方を見るのでありました。
(続)
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