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あなたのとりこ 614 [あなたのとりこ 21 創作]

「そうではありません」
「ではどう云う解決策を考えているのかね?」
「この際制作部を廃止すれば良いのじゃないでしょうか」
「制作部の廃止?」
 社長はここで目を見開いて驚くのでありましたが、頑治さんは単なるこの場の体裁として驚いて見せているのではないかと疑うのでありました。この制作部の廃止と云う路線は予め社長と土師尾常務の間で前から共謀されていた事で、丁度制作部の実質的責任者である均目さんが辞意を表明したので、しめしめとばかりここで土師尾常務が持ち出したのではないでありましょうか。なかなかに息の合った漫才コンビでのようであります。
「そうです、制作部の廃止です」
 土師尾常務は重々しく頷きながら繰り返すのでありました。
「そんな事をしたら贈答社と云う会社自体が全く成り立たなくなるんじゃないか?」
「いや、そうでもありませんよ」
 土師尾常務が妙に自信あり気な表情で続けるのでありました。「ここのところ自社製品と他社製品の売上比率を較べてみると、他社の売り上げの方が上回っています。それはつまり、自社に魅力的な商品がないという事です。それは片久那君は、僕にすればあれこれ物足りない部分はあったけど、それなりの商品企画力がありましたから、売り上げに占める自社商品の割合も六十パーセント程度はありましたが、それももう頭打ちで、片久那君が居なくなった後は、ギフトにしろ販促企画物にしろ他社製品の方が圧倒しています」
「でも自社製品を切り捨てるのはなかなか勇気の要る事じゃないだろうか。それに他社製品より自社製品の方が圧倒的に利益率は高いんだし」
「それはそうですが、でも売り上げに於ける自社製品の割合は、魅力的な商品が生み出せない以上、漸次減っていくしかないでしょう。利益率の高さに目が眩んで自社製品に拘った営業をしていると、この先深刻な事態に陥るのは見えていると僕は思いますよ。ここ何年かの売り上げ低迷は、つまり自社製品偏重の考えのためではないでしょうか」
「うーん、成程それも、一理はあるかな」
 社長は瞑目して顎に握り拳を添えて、まあそれは頑治さんの目に映る様として如何にも芝居っ気たっぷりと云った風に、首を縦に何度か動かすのでありました。
「おまけに均目君では片久那君の代わりになるとは到底思えないので、この際自社製品を軸に営業を展開する事をきっぱり諦める、と云う選択もしっかり考えるべきですよ」
 土師尾常務は横目でチラと均目さんを見るのでありましたが、その目には勝ち誇ったような軽侮の色と、この会議に於いてと云うばかりではなく、今迄事あるにつけ散々自分をコケにしてくれた事への報復成就の喜びの色が浮かんでいるのでありました。

 暫くの沈黙の後に均目さんが喋り出すのでありました。
「ええと、まあそう云う事なら、自分の辞意も認めて頂いたと考えて良いのですね?」
 社長と土師尾常務が一緒に均目さんを見るのでありました。
(続)
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