あなたのとりこ 613 [あなたのとりこ 21 創作]
「願ってもない事?」
社長は土師尾常務に首を傾げて見せるのでありました。
「これ迄観察してみて、どうも均目君では片久那君の後釜としては力不足で、この先制作部を安心して任せるのは無理じゃないかと思われるので、ここは均目君の方からの申し出でもありますから、この際辞めて貰う方が良いのじゃないでしょうか」
これはひょっとしたら先程均目さんに小学生程度の頭だと云われた事への、土師尾常務の意趣返しの言葉なのであろうかと頑治さんは考えるのでありました。
「そうするとこの先、制作の方はどうなるんだい?」
社長はの方は那間裕子女史を横目で窺うのでありました。「那間君に任せるのかい?」
「そんなの、あたしは困るわよ」
那間裕子女史は大袈裟に何度も首を横に振って、何が何でも絶対拒絶の意志表示をするのでありました。「さっきも云ったけど、あたしは地図や本の企画立案とか編集とか修正の仕事以外には、まっぴらご免蒙りますからね、この会社では」
「社員としてそんな自儘は通用しないだろう」
社長が女史を一直線に見るのでありました。
「そっちの勝手でそんな事決められても困るわよ」
「でも、若し均目君が会社を辞めたら、・・・」
ここで袁満さんが横から言葉を割り込ませるのでありました。「後は那間さんしか制作部には居ないんだから、責任者を引き受けるしかないんじゃないですか?」
「そりゃそうだ。俺もそう思うな」
これは日比課長の科白であります。「甲斐さんもそう思うだろう?」
ここで急に同調を求められた甲斐計子女史は、咄嗟にどう反応して良いのか判らないと云った様子を見せるのでありました。
「唐目君もそう思うだろう?」
甲斐計子女史の即答がなかったので日比課長は頑治さんを見るのでありました。
「まあそれは妥当なところでしょうが、那間さんの気持ちもありますしねえ。すんなり次は那間さんが責任者だと、こちらで勝手に決め付けるのもどんなものでしょうかねえ」
甲斐計子女史程にはあたふたしないものの、頑治さんも即答と云うのはまったく当たらない程度の間を置いて、同意と云うには何となく曖昧な云い草をするのでありました。
「そうよ、あたしの気持ちもあるんだからね、これは」
那間裕子女史がどこか悲壮な調子で云うのでありました。
「別に那間君に均目君の後釜を頼もうと云う訳でもない」
土師尾常務はなかなかきっぱりと云うのでありました。
「じゃあどうする心算なんですか」
袁満さんがそのきっぱりさ加減に抵抗するような語調で訊くのでありました。
「どこか他から適任の人を連れて来る、と云う事かな?」
社長も土師尾常務の意を読み兼ねているようであります。
(続)
社長は土師尾常務に首を傾げて見せるのでありました。
「これ迄観察してみて、どうも均目君では片久那君の後釜としては力不足で、この先制作部を安心して任せるのは無理じゃないかと思われるので、ここは均目君の方からの申し出でもありますから、この際辞めて貰う方が良いのじゃないでしょうか」
これはひょっとしたら先程均目さんに小学生程度の頭だと云われた事への、土師尾常務の意趣返しの言葉なのであろうかと頑治さんは考えるのでありました。
「そうするとこの先、制作の方はどうなるんだい?」
社長はの方は那間裕子女史を横目で窺うのでありました。「那間君に任せるのかい?」
「そんなの、あたしは困るわよ」
那間裕子女史は大袈裟に何度も首を横に振って、何が何でも絶対拒絶の意志表示をするのでありました。「さっきも云ったけど、あたしは地図や本の企画立案とか編集とか修正の仕事以外には、まっぴらご免蒙りますからね、この会社では」
「社員としてそんな自儘は通用しないだろう」
社長が女史を一直線に見るのでありました。
「そっちの勝手でそんな事決められても困るわよ」
「でも、若し均目君が会社を辞めたら、・・・」
ここで袁満さんが横から言葉を割り込ませるのでありました。「後は那間さんしか制作部には居ないんだから、責任者を引き受けるしかないんじゃないですか?」
「そりゃそうだ。俺もそう思うな」
これは日比課長の科白であります。「甲斐さんもそう思うだろう?」
ここで急に同調を求められた甲斐計子女史は、咄嗟にどう反応して良いのか判らないと云った様子を見せるのでありました。
「唐目君もそう思うだろう?」
甲斐計子女史の即答がなかったので日比課長は頑治さんを見るのでありました。
「まあそれは妥当なところでしょうが、那間さんの気持ちもありますしねえ。すんなり次は那間さんが責任者だと、こちらで勝手に決め付けるのもどんなものでしょうかねえ」
甲斐計子女史程にはあたふたしないものの、頑治さんも即答と云うのはまったく当たらない程度の間を置いて、同意と云うには何となく曖昧な云い草をするのでありました。
「そうよ、あたしの気持ちもあるんだからね、これは」
那間裕子女史がどこか悲壮な調子で云うのでありました。
「別に那間君に均目君の後釜を頼もうと云う訳でもない」
土師尾常務はなかなかきっぱりと云うのでありました。
「じゃあどうする心算なんですか」
袁満さんがそのきっぱりさ加減に抵抗するような語調で訊くのでありました。
「どこか他から適任の人を連れて来る、と云う事かな?」
社長も土師尾常務の意を読み兼ねているようであります。
(続)
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