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あなたのとりこ 599 [あなたのとりこ 20 創作]

 均目さんがその言葉に拘りを見せるのでありました。
「いや、脅しと取られたら不本意だが、しかしその収支報告書の数字を見れば、私の云っている事が冗談や下らない謀ではない事はちゃんと判るだろう?」
「そう云われるとまたこの報告書が、ちゃんと信用出来るものか出来ないものかの話しに戻って仕舞いますが、ま、それは一先ず置いておくとして」
 均目さんは皮肉な笑いを片頬に浮かべるのでありました。「話しを続けると、若しも我々従業員が待遇の見直しに応じない場合は、次にどう云う手を考えている訳ですかね?」
「そうなれば、こちらとしても避けたいところだが、人員整理、しかないだろうね」
「よく云うわ!」
 那間裕子女史が吐き捨てるのでありました。「先ず唐目君、その次にあたしを土師尾さんを遣って馘首しようと策謀していたくせに、何が次の手が、人員整理、なのよ。先ず人員整理があって、それがダメなら待遇の改悪、と云う肚でいたんでしょう。順番がまるで逆じゃない。社長が態とそんな誤魔化しを今更使うのなら、誠意を疑うわ」
「そのどちらが先か後かなんかは、大した問題ではないだろう」
 また土師尾常務がしゃしゃり出てくるのでありました。
「人員整理と云う方法が先か、それとも待遇改悪と云う方法が先かでは、少しそちらの誠実さのところに違いがあるような気がしますけどねえ」
 袁満さんが首を傾げるのでありました。
「ほう、どんな違いか、説明してくれるか?」
 土師尾常務は袁満さんを睨むのでありました。
「いや、言葉では上手く説明出来ないけど。・・・」
 袁満さんは土師尾常務の迫力に圧された訳ではないでありましょうが、腕組みしながら少し俯いて語勢を後退させるのでありました。
「まあいいや」
 均目さんが社長の方を向いて仕切り直すのでありました。「どちらが先でどちらが後かは知らないけれど、結局どちらか一方ではなく人員整理して後に待遇改悪も、待遇改悪して後に人員整理もと両方込みで策謀していたんでしょうからね」
 均目さんはそう云って自得するように一つ頷いて、また続けるのでありました。「結局じゃあ、人員整理、と云うのは、具体的には一体誰を整理する心算なんですか?」
 均目さんのやけに率直な問いかけに対して、社長はおどおどと目の玉を揺動させるのでありました。社長だけではなく土師尾常務も、この人の狼狽えた時のお決まりで、そわそわと落ち着き無く眼鏡の奥の目を微動させるのでありました。
「まあ、特定して名前を上げるのは気が進まないが、・・・」
 社長がそんなたじろぎを見せると、ここは仕方が無いながら社長への忠義の見せどころと覚悟してか、土師尾常務が珍しく気丈にも目の微動を収めるのでありました。
「それは僕の方から云わせて貰う」
 この場の皆の目がそう云った土師尾常務の顔に向けられるのでありました。
(続)
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