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あなたのとりこ 598 [あなたのとりこ 20 創作]

 この会議に於いて均目さんと那間裕子女史は、連携を取って言葉を社長と土師尾常務に投げかけているようでもあると、頑治さんはうっすら思ったりしていたのでありました。と云う事は、頑治さんのアパートに泥酔した那間裕子女史が表れて、それを均目さんが介抱しながら引き取っていったあの一件後、その経緯はさっぱり判らないながらも一応目出度くも仲直りをした、と云う事になるのでありましょうか。で、ちゃんと仲直りして一件落着の後に、この全体会議に二人して臨んでいると云う事になるのでありましょうか。
 しかし今の那間裕子女史の均目さんを見る目とその恨み言から察すると、未だ二人の間の蟠りはちっとも解けてはいないようにも見えるのであります。あの一件後にこの二人はどう云う風に互いの気持ちを整理整頓したのでありましょう。ま、今の全体会議の話しの流れとは全く無関係ながら、頑治さんをそんな事を秘かに考えているのでありました。

 社長はソファーの背凭れにふんぞり返るように身をあずけて、均目さんの顔を忌々しそうな目をして睨むのでありました。
「均目君は元々、組合と我々の団体交渉と云う形ではなく、社内の全体会議と云う形に賛成だった筈じゃなかったかね?」
「まあそうでしたけど、社長が外部の経理の専門家を呼んできて、その人に我々の説得を依頼すると云うんですから、そうなると話しは違ってきますよ。我々としても一方的に社長の側に立った計理士さんに縷々説得されると云う構図は、これは如何にも拙いから、こちら側も経理の専門家を呼んできて、同等の立場で対抗するしかないじゃないですか」
「いや、どうしても経理士さんを呼ぶと云っているんじゃないよ。君達が私や土師尾君の説明ではすんなり納得出来ないと云う事らしいから、それなら、と云う事だよ。別に私や土師尾君の説明で構わないのなら、計理士さんの手を態々煩わせる必要はないよ」
 社長は別に懇意の計理士に従業員に説明と説得を依頼すると云う事に、殊更拘っていると云う事ではないのでありました。まあ、会話の流れから、そう提案をした迄で、特に予めそのように図っていたのではないのは頑治さんも得心するところでありましたか。
「じゃあ、まあ、経理士さんを呼ぶとか呼ばないとかはこの際置いて、話しを前に進めましょう。つまり社長と土師尾常務はこの会計報告を出す事に依って、その次に用意してあるであろう忌憚のない具体的な解決策を、曖昧にしないで、それにあんまり粉飾したり、脅かし効果を秘かに狙ったりしないで、率直に明快に話していただきましょうか」
 均目さんが社長の顔を見ながら仕切り直しの心算でそう云うのでありました。
「まあ、はっきり云えば、君達の待遇を見直したいと云う事だ。他の会社や他の組合との釣り合いと云う観点ではなく、我が社の身の丈と現状に合った待遇に改めないと、もうどう仕様もないところに来ていると云う危機感を、君達にもちゃんと持ってもらいたいと云う事だよ。はっきり云ってそうしないと、君たちは失業の憂き目を見る事になる」
 社長はこの科白が、均目さんに脅しの効果を狙ったけしからぬものと受け取られないように、何となく深刻らしさと懇願の調子を語句の端々に散りばめるのでありました。
「失業の憂き目、ですか?」
(続)
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