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あなたのとりこ 588 [あなたのとりこ 20 創作]

「均目君はどうしてそう、僕を小馬鹿にするような云い草をするんだ?」
 土師尾常務は例によって今度は、均目さんの自分に対する不謹慎な態度にイチャモンを付け始めるのでありました。
「強いご要望であるなら、今日の議題は脇に置いてその話しに移っても構いませんが、そうなるとまた、誰彼の態度が気に入らないだとか、自分が蔑ろにされているのはけしからぬ事だとかの、全く以って下らない云い合いをこれから展開する事になりますが、どうやら常務は大切な議題よりも、そう云う罵り合いみたいな展開をお望みのようですね」
 均目さんは茶化すような笑いを未だ湛えた儘でありました。
「まあ土師尾君、そう云う不毛な云い合いは止して、会社存続が深刻な危機にある事を社員の皆さんに理解して貰う方を先にした方が良いだろう」
 土師尾常務のあまりの頓珍漢振りにほとほと呆れてか、社長がソファーの背凭れから少し身を起こしながら口を挟むのでありました。「那間君にもその危機感をちゃんと共有して貰いたいから、土師尾君は反省を促そうとして敢えて遅刻の件を持ち出した訳だ、云い方が悪くて上手く伝わらなかったかもしれないが。その辺は均目君も売り言葉に買い言葉みたいな反応をしないで、少しは弁えてくれても良いんじゃないか?」
「社長はそうおっしゃいますけど、那間さんとしても充分反省はしているんだけど、常務に頭ごなしに罵るような語調で噛み付いてこられれば、それは反発して竟々無礼なものの云い方をして仕舞うのは、これはもう仕方が無いじゃないですか」
「それは確かに目上の者としての在り方には問題があるかも知れない」
 社長は分別有り気に頷いて見せるのでありました。自分だけ格好を付けようとしてか、そんな事を云う社長に土師尾常務が驚いて、体ごと横に座る社長に向き直るのでありました。土壇場でちゃっかり梯子を外されて仕舞ったような具合でありますか。
 しかしところで、均目さんは土師尾常務の何時も通りの、ちょいと挑発されると肝心のところをすっかり脇に置いて、まんまとその相手の言に乗っかって仕舞う迂闊さに、実は上手に付け込もうとしているようにも頑治さんには見受けられるのでありました。要は均目さんの方が土師尾常務の短気と単細胞を利用して、この全体会議での話題を本来の議題からするりと遠ざかるように仕向けるよう秘かに画策しているようにも思えるのであります。まあ、何のためにそうしているのかは未だ確とは判らないのでありますけれど。
「ここら辺で話しを本題に戻そう」
 社長は仕切り直すのでありました。「前の会議の時にも、その前からも繰り返し云っているように、会社の存続そのものが危機的な状況にある事を社員の皆さんも判って貰うために、本当は無闇に出したくはないのだけれど、こういう資料を見て欲しいんだがね」
 社長はそう云って持参したファイルケースから一枚のA4用紙を一枚取り出して、均目さんか袁満さんか少し迷った上で、先ずは袁満さんの前に置くのでありました。
「何ですかこれは」
 袁満さんは徐に紙を取り上げて目を近付けるのでありました。
「正式の決算書類ではないけど、会計事務所で作って貰った会計報告だよ」
(続)
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