SSブログ

あなたのとりこ 568 [あなたのとりこ 19 創作]

「まさかこの前のストライキにもめげずに、性懲りもなく今度は袁満君に会社を辞めるように促すために喫茶店に誘った訳?」
「いやそうじゃなくて、何と云うのか、・・・」
 袁満さんは何とも話しにくそうに眉間に皺を寄せて、その後助けを求めるように頑治さんをちらと窺い見るのでありました。
「その席では袁満さん自身に関する事ではなく、どうしてかは俺にはさっぱり判りませんけど、那間さんの事が話題になったそうなんですよ」
 頑治さんがあっさりと代わりに云うのでありました。
「あたしの事?」
 那間裕子女史は自分の鼻を指差すのでありました。「つまりあたしを辞めさせたいと云う話しを、土師尾さんが袁満君にしたって事?」
「いや、はっきりとそう云う訳では、これがなさそうなんですよ」
 ここは袁満さんが口重そうに云って首を横に振るのでありました。
「じゃあ、あたしがどうして、二人の話しに登場したの?」
「それは未だにあやふやで、俺も良く判断出来ないんですけどね」
「で、内容は何だったの?」
那間裕子女史は袁満さんのこう云う話し振りが如何にももどかしいようで、視線をやや険しくして袁満さんを睨みつつ先を促すのでありました。
「那間さんが遅刻の常習犯であるとか、自分に対して敬語を使わないとか、社長に対しても敬意不足だとか、傲慢だとか、まあ、そう云った悪口です」
「ふうん。あたしの悪口をあれこれ云うために袁満君を喫茶店に誘ったって訳?」
「どういう魂胆があったのかは知れませんが、でもまあ、何だかんだと那間さんの行状について、批判がましい事ばかりを喋っていたと云うのは事実です」
「ふうん、そう」
 那間裕子女史はここで顎に右手の曲げた人差し指の背を添えて、視線は袁満さんに向けた儘ながらややその険しさを緩めて、考え込むような仕草をするのでありました。
「何かの布石として那間さんに対する批判をベラベラ並べ立てたのでしょうけど、それが何の布石であるのかは結局得心出来ませんでしたけど」
「で、袁満君はどうしてそんな話しを始めたのか、そこで確かめはしなかったんだ?」
「ええまあ。一方的に捲し立てるんで、こちらから喋るきっかけがなくて」
 袁満さんは面目なさそうに俯くのでありました。
「要するにあたしを退社に追い込むための布石、と云う事だわね」
 那間裕子女史はそう云って横の頑治さんを見るのでありました。
「まあ、俺も多分そんな辺りだろうとは思います」
「先ず袁満君にあたしへの批判を聞かせてみて、袁満君がその批判に敢えて反論しないようなら、それはつまり他の従業員も同様に積極的ではないにしろ反論はしないだろうと勝手に判断して、それを以って今度はあたしを喫茶店に連れ出すと云う算段かしらね」
(続)
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。