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あなたのとりこ 564 [あなたのとりこ 19 創作]

「その、ずば抜けて、と云うのは、全社員の中で、と云う事ですかね?」
「まあ、そうだね」
 袁満さんは下唇を噛んで頷くのでありました。
「どう云うところに問題があると云う訳ですか?」
「先ず、朝の遅刻の件だそうだ」
 それを訊いて頑治さんは思わず吹き出すのでありました。
「ほう、那間さんの朝の遅刻の件だと、あの土師尾常務が云う訳ですか」
「役員になる前からそうだったけど、自分が定時に出社してこない事をさて置いて、一体どの面下げて那間さんの遅刻を論えるのか、俺もその神経に呆れるしかないけどね」
 袁満さんが、俺も、と云うのはつまり、頑治さんがこれを聞いて思わず吹き出して仕舞ったのをしっかり受けての云い草でありましょう。
「確かに朝の遅刻は、那間さんが付け込まれ易いところではありますけど」
「しかし土師尾常務がしれっとそこに付け込むのは、どうかと思うけどね」
「でも本当かどうか大いに疑わしいけれど、一応仕事で得意先に直行しているからだ、と言い逃れる余地は確保してはありますか」
「そんなの大嘘に決まっているじゃないか。現に、前にちょっとした行き違いでその嘘がバレかけた事もあるくらいだからね」
「そう云えばそんな話しを前に聞いた事がありましたかねえ」
「アイツの云う事なんか、これっポッチも信用出来ないよ」
 袁満さんは鼻を鳴らしながら、右手の親指と人差し指を立ててその二指で僅かの隙間を作って、これっポッチの具合を頑治さんの目の前に示すのでありました。
「それなら、人の遅刻をあれこれ云う前に、土師尾常務自信がその自分の那間さん批判に恥じる事が無いのかと、袁満さんはその場で毅然と云い返したんですか?」
「いやあ、それは、・・・」
 袁満さんは頑治さんからおどおどと目を逸らすのでありました。
「それはその場では云わなかったのですね?」
「だって、云っても何だかんだと聞いたような事をほざいて云い逃れするし、喫茶店の中と云う場も弁えないで、急に怒り出したりされたら厄介だもの」
 袁満さんは自分の弱気をもじもじと弁解するのでありました。
「あの人が怒って見せるのは単なるポーズで、実はかなりの小心者だから相手が逆に怒気を露骨に表すと、すぐにへなへなと萎むんじゃないですかね」
「まあ、そうかも知れないけど。・・・」
 袁満さんは頑治さんの目を見ないで、居心地悪そうに身じろぎするのでありました。
「まあ、袁満さんの土師尾常務への態度のところはさて置いて、遅刻の他に土師尾常務が云う那間さんの仕事上の色々ずば抜けた問題態度、と云うのは何なのですかね?」
 頑治さんは話しを先に進めようとするのでありました。
「後は、言葉遣いと云う点も云っていたな」
(続)
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