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あなたのとりこ 557 [あなたのとりこ 19 創作]

「要するに均目君は、私等が危機を煽って昨年の暮れのボーナスみたいに、出さずに済ませられるのならそうしようと企んでいると思っている訳かな?」
「そうですね」
 均目さんは何の屈託も遠慮もなく頷くのでありました。「それに春闘で妥結した我々の新賃金やら賃金体系も、あわよくば反故にしたいと考えているんでしょうし」
「何だ、社長に対するその失礼なもの云いは!」
 またここで土師尾常務が大変な剣幕でしゃしゃり出て来るのでありました。「それに勝手な憶測で、妙な云い掛かりを付けられるのは大いに心外だ」
「そんな風にすぐにムキになるところが益々怪しいですね」
 土師尾常務が幾ら凄んで見せても、この人物に針の先程も心服していない均目さんには端から利かないようであります。寧ろ益々鼻で笑われるのがオチでありますか。

 社長が土師尾常務を手で軽く押し退けて背凭れから身を起こすのでありました。「春闘での約束は原則的にはこちらとしても誠実にしっかりと守りますよ。その辺は変に疑り深くならないで、信用して貰っても別に良いんじゃないかな」
「ここに至って会社解散なんかを仄めかして我々を脅しに掛かる人に、春闘の時の妥結事項を誠実に守ろうとする気なんか果たしてあるんでしょうかね」
 均目さんは社長に猜疑の目を向けるのでありました。
「脅してなんかいないよ。会社の現実を、誤魔化さずに話しているだけだよ」
 社長はさも誠意のあるところを見せようとしてか静謐に云うのでありました。
「裏付けとしてちゃんとした数字が出てこないと、今のその、社長の云う会社の現実を素直に信用する事は出来ないじゃないですか」
 袁満さんが口を挟むのでありました。
「数字を出してもそれが君達に判るのか、甚だ疑問だが」
 袁満さんが均目さんと社長の会話に口を挟むのだから、自分も遠慮なく喋っても構わないじゃないかと云う道理からか、ここでまた土師尾常務が横から、袁満さんを露骨に見縊って、からかうような語調で茶々を入れるのでありました。
「数字はちゃんと読めますよ。馬鹿にしないでくださいよ」
 袁満さんは憤然とするのでありました。
「まさか全総連に持ちこんで、判断して貰おうと思っているんじゃないだろうね?」
「そう云う手もありますね」
「それはダメだよ。労使の団体交渉で出す数字ではなくて、社内の全体会議での数字なんだから、それを社外の人に教えるなんてルール違反だ」
「未だ数字は出ていませんけど」
 頑治さんが土師尾常務のお先走りの危惧に冷笑を向けるのでありました。
「つまり、数字はちゃんと我々に出すと云う事と受け取って良いんですね?」
 均目さんが土師尾常務の言質を捉えるのでありました。
(続)
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