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あなたのとりこ 552 [あなたのとりこ 19 創作]

「しかし、ここで那間さんに会社を辞められたら、組合としても痛手だし」
「矢張り団交を全体会議に変容させたと云うのが、気に入らなかったんでしょうね」
「でも殊更経営側と対立する必要も無いし、穏やかな方が話しもし易いし」
「那間さんとしては穏やかでない方が、余計な配慮がいらない分、或る意味で話しがし易いと考えていたんじゃないですかね」
「そうかなあ」
 袁満さんは、穏やかならざる方が話しがし易い、と云う辺りが全く判らないようでありました。まあ、那間裕子女史が本当に穏やかな話し合いを求めない方を良しとしているかどうかは、確かめた訳でもないので頑治さんにも実は判らないのではありますが。
「で、結局今日の全体会議には、こちらとして打ち合わせとか意見の擦り合わせとかは何もしないで臨むと云う事になるのですか?」
「まあ、団交と云う訳じゃないから、今日のところはそうなるかなあ」
「申し入れみたいな事も当面しないんですね?」
「向こうの話しを、先ずは聞くと云うスタンスかな」
 成程これは大したトーンダウンであるなと、頑治さんは顔には出さないけれど些か失望するのでありました。話しを聞く、と云う態度で臨むだけなら、今日の全体会議は頑治さんか甲斐計子女史の馘首に対する何らの対処もないと云う事でありましょう。
「先ずは話を聞いて、それから後日、向こうが狙っている従業員の誰かを辞めさせると云う謀の対処をする、と云う事になるのですか?」
「そう云う順序かな」
「それは全くの後手で、向うのペースにすっかり乗ると云う事になりませんか?」
「いやまあ、向こうの企みがはっきりした上での方が、こちらの具体的な対処法が練り易いんじゃないかな。その上で、組合の団体交渉と云う次の手段も取り易いし」
「そうですかねえ」
 頑治さんは首を傾げるのでありました。これはどうやら那間裕子女史に連動して頑治さんもボイコットに加担すべきだったかも知れないと、竟々思って仕舞うのであります。
 袁満さんは倉庫に来た時よりももっと憂鬱そうな顔をして、上の事務所に引き上げて行くのでありました。今後の那間裕子女史の取り扱いと云う点も、会社の将来とか自身の仕事の進捗とかに加えて、また一つ頭の痛い事態が増えたというところでありますか。

 新宿の件の洋風居酒屋のカウンター席に隣り合わせに座る頑治さんに、一口飲んだモスコミールをコースターの上に置きながら那間裕子女史は喋り掛けるのでありました。
「結局全体会議は、こちらから何も云い返さないで無様に終わったのね」
「そうですね。まんまと社長と土師尾常務に主導権を奪われたと云う感じでしたね」
 頑治さんは自分のジントニックをコースターから取り上げるのでありました。
「心配した通り、矢張り外部の人が入らないとウチの連中はしおらしいだけね」
 那間裕子女史は舌打ちするのでありました。
(続)
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