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あなたのとりこ 551 [あなたのとりこ 19 創作]

「病欠と云わないで、ちゃんとボイコットと云っても良かったんじゃないですかね」
 頑治さんのその言を配慮不足、あるいは非情と取ったようで、袁満さんは目を剥いて少し驚いたような表情をして見せるのでありました。
「そんな事を云ったら、明日以降の那間さんの立つ瀬がないじゃないか」
「多分、そんな事もありませんよ」
 頑治さんは静穏に云うのでありました。「那間さんの思惑としてはこの反抗的な行動が土師尾常務にその儘伝わる事を、端から承知の上だったんじゃないですかね。若しそれを不都合と思うなら、態々袁満さんにボイコットだとは云わなかったでしょうから」
「いやでも、それは電話に出たのが偶々俺だったから、敢えて、本当はボイコットのために休むんだと秘かに打ち明けたという事じゃないのかな」
「でも、例えば土師尾常務には欠勤の理由をボイコットとは云わずに、適当に誤魔化して置いてくれとか何とか、そんなお願いをした訳じゃないんでしょう?」
「それはそうだけど。・・・」
「那間さんとしては全体会議をボイコットする意志で会社を休むんだと、皆に向かってはっきり公言する心算でいたんだと思いますよ」
「つまり俺が那間さんの真意を測れないで、気を遣い過ぎたと云う事かい?」
「まあ、袁満さんも悪気があっての事では決してないでしょうけれど」
 袁満さんは顎に指を当てて考え込むような仕草をするのでありました。
「そんな那間さんの意志も知らずに、頓珍漢にも俺は野暮な事をしたと云う訳か」
「俺はそう云う風に那間さんの態度を理解しますけど」
「でもそうだったら、つまり那間さんは土師尾常務や社長に喧嘩を売る心算だと云う事になるよなあ。那間さんは、会社に見切りを付けたのかな?」
「見切りを付けたのかどうかは、このボイコット一事だけでは判断出来ませんけど。例えば単に後先は考えずに、土師尾常務と社長に自分の態度を断固表明して、動揺させて猛省を促す事が出来れば、と云う風に考えたのかも知れないし」
「社長と土師尾常務の事だから、猛省なんか絶対しないぜ。寧ろ那間さんを憎んで、しめしめとばかり抜け目なく待遇を悪くしたり、とことん虐めようとするんじゃないかな」
「まあ、そうでしょうかねえ」
 頑治さんは口をへの字にして一応頷くのでありました。「気持ちが社長や土師尾常務に伝わらないとなったら、その時は那間さんも何かしらのけじめを付けるでしょうね」
「つまり、結局は会社を辞める事になる、と云う事だよな」
「那間さんも相当の意地っ張りですから、そうなればおめおめとは引き下がらないでしょうね。感情が激して、じゃあ会社を辞める、と云い出すかも知れませんけどね」
「結局は要するに、そう云う事になるじゃないかなあ」
 袁満さんは顔を顰めるのでありました。「だったら、那間さんは病欠だと云う風にして置いて、なるだけ穏便に処理する方が得策だと云う事だよな」
「でも那間さんは、端から穏便な処理なんかを望んではいないと思いますけどねえ」
(続)
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