SSブログ

あなたのとりこ 545 [あなたのとりこ 19 創作]

 均目さんなら那間裕子女史を家に送って行けるでありましょう。それどころかひょっとしたら、均目さんと那間裕子女史は半同棲に近い間柄だと秘かに頑治さんは疑ってもいるのでありましたが、それは兎も角、頑治さんの方は那間裕子女史が何処に住んでいるのか知らないのであります。荻窪駅の近くだとは聞いた事があるのでありましたが。
 だとしたらへべれけの那間裕子女史を一人タクシーに押し込んで、それでさようならと云う訳にもいかないでありましょう。結局同乗して自分がアパート迄送り届ける羽目になるのであります。それより何よりタクシーの運転手が良い迷惑で、那間裕子女史を一人うっちゃってそれで遁走しようとする頑治さんの無責任を許さないでありましょう。
 そうやって否が応でも頑治さんが那間裕子女史を何とか家に送り届けたとして、その後はもう放ったらかしで退散するとしても、今度は頑治さんの帰路は一体どうなると云うのでありましょうか。那間裕子女史のへべれけがすんなり早い段階で完了したなら良いけれど、時間が掛かって仕舞ったら、頑治さんの帰路と云う段になって未だ電車が動いていると云う保証は無いのであります。勿論那間裕子女史の家に泊まる訳にはいかないし、そうなればまたタクシーと云う事になって、これはもう全く、弱り目に祟り目であります。
 ああそれから、那間裕子女史と均目さんが半同棲状態だと云う頑治さんの勘繰りが若し当たっているとしたら、ひょっとしたら送って行った那間裕子女史のアパートで均目さんと出くわすかも知れないと云う事であります。そうなると、それはそれで何だか別のところで、また妙にややこしくて気の重い事態の推移と云う訳であります。
 送っていく前に試しに那間裕子女史の家に電話を入れてみた方が好いでありますか。その電話に均目さんが出ないなら頑治さんが送って行くとして、若し均目さんが出たら、如何にも唐突の感を均目さんが抱くとしても、均目さんに迎えに来るように依頼すると云う手もありますか。その方が渋ちんながら頑治さんの散財は無くなるのであります。
「均目君に電話を入れて、ここに呼び出して、会社の将来像とか、これから先のあたし達との関係をどう云う風に考えているのか、聞き質してみたいものね」
 頑治さんの取り越し苦労と云えなくもないお先走りの思念の流れに、那間裕子女史が横からグイと竿を差し入れるのでありました。
「え、もう均目君に電話するのですか、未だへべれけになってもいないのに?」
「何の事、へべれけって?」
「いや、その、何でもないです、別に。・・・」
 頑治さんはまごまごしながらジンフィズを一口飲むのでありました。
「均目君は未だ会社にいるんじゃないかしら」
「そうですね、このところ連日残業しているようですからね」
 仕事に未だ慣れないせいもあって、均目さんの残業はここに来てかなり増えているのでありました。尤も残業代を払いたくない土師尾常務は、均目さんの仕事不慣れに依る自主的な居残り、と云う扱いしたいようでありましたが、これは流石に組合に認めさせる事は出来ないのでありました。まあ、土師尾常務としてはあわよくば、と云うところで提案した迄で、そんな事は認められないのは最初から判っていた筈でありましょうが。
(続)
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 11

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。