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あなたのとりこ 540 [あなたのとりこ 18 創作]

「何だか取り留めなくこうしていると午後の仕事にも差し支えるから、どうだろう、全体会議として話し合いを持つと云う線に合意の人は挙手して貰えますかね?」
 均目さんは袁満さんと甲斐計子助女史を交互に見るのでありました。しかし頑治さんと那間裕子女史の方には視線は向けないのでありました。
 やや間を空けてから、先ず袁満さんがおずおずと片手を肩の高さ迄挙げるのでありました。それを見て今度は甲斐計子女史も同じく躊躇いがちに、均目さんの方にのみ顔を向けて、と云う事はつまり頑治さんと那間裕子女史とは全く目を合わせないようにしながら、ごく控え目な風情で片手を挙げて見せるのでありました。
「全体会議に賛成の人が俺を入れて三人と云う事ね」
 均目さんはそう念を押して頑治さんと那間裕子女史を見るのでありました。「まあ、ここに来て当初の打ち合わせとは違った様相になって仕舞ったけど、手を挙げなかった那間さんと唐目君は、矢張り労使の団体交渉と云う線を崩さないのかな?」
「そうね。矢張り団体交渉の方がこういう場合の話しの形式としては、しっくりいくように思うな。まあ、どう云う意図からか、多数決と云う手段をここで急に持ち出した均目君の遣り方にはちょっと疑問もあるけど、五人の内の三人が全体会議で話し合う方が良いと云う意見なら、結局それに従うしかないとは思うけど」
 頑治さんは天敵を見るような目で自分を睨む那間裕子女史の威圧を、頬のあたりに強く感じるのでありました。頑治さんの後半の云いようが如何にも優柔不断で、全体会議派に何時でも転ぶ心算だと判断したのでありましょう。その視線に籠められた逆上具合から見ると、那間裕子女史は頑治さんにも裏切者認定の判を押したのでありましょう。
「那間さんはどう?」
 そう訊かれて那間裕子女史は均目さんを一睨みして、その儘無言で土師尾常務を囲む輪からプイと抜けるのでえありました。自分はこんな馬鹿げた茶番劇には加わりたくないと云う、当て付けがましくて喧嘩腰で、慎みのない意志表示でありますか。
「それじゃあ、社内の全体会議として話し合うと云う事で良いんだね?」
 那間裕子女史の不貞腐れたような脱落を止めもしないで見ていた土師尾常務は、女史の姿がマップケースの向こうに消えてから、均目さんに不愉快そうに聞くのでありました。勿論この不快感は不貞た態度の那間裕子女史に対するもので、均目さんに向けたものではないのでありました。寧ろ労使の団体交渉と云う形を回避して社内の全体会議と云う線に話しを纏めた均目さんには、よくぞやってくれたと云う思いがあるでありましょう。
「俺と袁満さんと甲斐さんはそれで構わないとして、唐目君からははっきりそれで良いと云う言質を貰っていないけど?」
 均目さんは頑治さんに明確な諾の返答を迫るのでありました。
「俺は矢張り、労使の団体交渉として話し合う方が未だベターだと思っているから、ここは、扱いとしては棄権と云う事にして貰いたいね」
 頑治さんは全く潔くない云い草だと、云いながら思うのでありました。これなら那間裕子女史の方が遥かに、きっぱり態度表明していると云うものでありましょう。
(続)
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