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あなたのとりこ 537 [あなたのとりこ 18 創作]

「那間君はどうして何時も、僕に反抗的なんだ?」
 土師尾常務が口を尖らせるのでありましたが、これは疑問と云う形を取っているけれど、一種の不満か繰り言として結構素直に発せられた言葉でありますか。
「だって片久那さんと違って、云う事が一々信用出来ないんだもの」
 那間裕子女史はあっさりと、尚且つきっぱりと云うのでありました。これは前の上司だった片久那制作部長との比較に於いてと、云うだけではなく、根本的に土師尾常務を虫が好かないヤツだと思っているからでもありましょう。勿論那間裕子女史に嫌われるだけの実績(!)が土師尾常務にある事は、頑治さんも大いに認めるところではありますが。
「それは確かに、前に居た片久那君に比べれば、僕は如何にも頼りなくて無能に見えるかも知れないが、僕だってそんなに棄てたものではない心算だけど」
 これは謙遜を匂わせているような云い草ながら、しかしもう愚痴そのものと云った按配でありまあすか。それに一種の自惚れの表明でもありますか。
「若し本当に捨てたものじゃないのなら、会社がこんな風になる筈がないじゃないの」
 那間裕子女史は片頬に憫笑を浮かべるのでありました。
「そんな無礼な云い方があるか!」
 土師尾常務は声を荒げるのでありました。早々の本領発揮のようであります。
「そうやってちょっと何か云われると、うっかり即座に反応して、単純に腹を立てるところなんかが、あたしが如何にも頼りなく思う所以よ」
 これは正確さを欠くもの云いであると頑治さんは秘かに考えるのでありました。片久那制作部長も結構すぐに怒りや不快感を顔に出すタイプでありましたが、しかし那間裕子女史は片久那制作部長に対してはこう云う不謹慎な事は決して云わないのでありました。それはつまり片久那制作部長の剣幕には、那間裕子女史すらも納得させて仕舞うだけの妥当性と厳めしさが備わっていたからでありますか。片久那制作部長に比べると土師尾常務に対して那間裕子女史は尊崇の念なるものを、欠片も持っていないと云う事であります。
 でありますから、先の言のような軽々しい程の率直さで土師尾常務に対して暴言も吐けるし、それを申し訳無いと寸分も感じないで済むのでありましょう。ま、那間裕子女史は端から、土師尾常務を全人格的に侮って止まないところがあるのでありますか。
「まあまあ那間さん、そんな事を云ったら話しが先に進まなくなるよ」
 均目さんが那間裕子女史を窘めるのでありましたが、那間裕子女史にしたらこの一方的にこちらに非があるような云い草が、これまた気に入らないところのようであります。
「話しを進まなくしているのはあたしじゃないわよ」
 那間裕子女史は均目さんに険しい顔を向けて、しかし視線は土師尾常務の方に流すのでありました。要するにそれを云いうなら、自分にではなくこの判らず屋の単細胞の方に云ってよ、と云うような不満を均目さんに表して見せているのでありました。
「兎に角、どうなんだろう、団体交渉と云う形じゃなくて社内の全体会議と云う形式にすると云う案を、他の人はどう思うのかな?」
 均目さんは苦慮の笑みを口の端に薄く湛えて、一同を見渡すのでありました。
(続)
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