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あなたのとりこ 532 [あなたのとりこ 18 創作]

「じゃあ明日の事を確認するけど、明日土師尾常務が出てきたら早速団交を申し入れる事になる訳だが、それは当該だけで行うんだね?」
 横瀬氏が段取りを確認するのでありました。
「そうですね。申し入れは当該組合員だけで行います」
 袁満さんが頷きながら応えるのであり巻いた。
「団交は即日開催と云う訳もいかないだろうから、明日の土師尾常務への申し入れには社長は同席しない公算が大きいと云う事になるが、しかし日時を改めて設定した団交には、土師尾常務から報告を受けて社長も出席すると云う事になるんだね?」
「そうですね。土師尾常務とだけ話しても多分埒が開きませんし、社長が出て来ないと、実際は何も決められないでしょうし。寧ろ社長の出席はこちらから要求します」
「で、その団交には全総連から俺か、他に一人二人入れば良い訳だね」
「我々の目論見としてはそう云う事になりますね」
「じゃあ、一応組合立ち上げや春闘の時から馴染みがあるから、派江貫さんと来見尾さんに声を掛けて置こう。この二人ならお宅の社長とも顔見知りだし」
「三人に来ていただけるなら、大いに心強いです」
 そう云って袁満さんは横瀬氏に感謝のお辞儀をするのでありました。

 さて次の日、思った通り土師尾常務は定時に出社する事はないのでありました。しかし一軒だけ得意先に寄ってくるだけだから、午前十一時には会社に顔を出すと云う事でありました。昨日の事を気にして、オロオロして自宅で安楽に仕事をサボっていられなくて、誰よりも早く出社に及ぶ事もあるかと話していたのでありましたが、それ程応えていないのか、意外にあっけらかんと何時も通りの増長振りであります。
 日比課長は昨日の事を何も知らないのでありました。と云う事は帰社してから土師尾常務に縷々、ある事無い事ぶち撒けられた訳ではないようであります。日比課長が何も知らなかったと云う事は朝出社してから判明したのではなく、昨日の夜に袁満さんが家に電話して確認した事でありました。日比課長は土師尾常務の依怙地でとことん判らず屋の態度に組合員が怒って、ストライキに及んだ事態に大いに戸惑っているようでありました。
 実は日比課長は遅くなったので昨日は仕事先から直帰したのでありました。そうなら土師尾常務と昨日中には接触もなかったし、袁満さんの電話を受ける迄、終業時間前に従業員皆の顔が会社から消えている事を全く知らなかったでありましょう。
 土師尾常務は十一時を二十分程過ぎてから会社に遣って来るのでありました。組合員は土師尾常務が自席に着くと早々に彼の人を取り囲むのでありました。
 袁満さんが昨日の内に罫紙にしたためておいた、封筒に入った団体交渉申し入れ書を土師尾常務の机の上に如何にも重々しい様子で置くのでありました。
「何だね、これは」
 土師尾常務はそれを取ろうとせずに上から眺め遣るのでありました。すんなり手に取らないのは、自分を囲んでいる組合員に対する不快感を表している心算でありましょう。
(続)
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