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あなたのとりこ 531 [あなたのとりこ 18 創作]

「それはそうね。今は余計な話しをしている場合じゃないし」
 那間裕子女史も口調を改めるのでありました。
「土師尾常務としては、良策はさっぱり思い付かないし、かと云ってこの儘すごすごとこちらの申し入れに従うのは癪だし、遂に持て余して、日比課長ではなく社長に話しを持って行って、明日になったら社長が出て来ると云う事はないかな?」
 袁満さんが別の懸念を口にするのでありました。
「まあ、それはあるかも知れないわね」
 甲斐計子女史も心配顔をするのでありました。
「今日は駐車場に、社長の車はありませんでしたよ」
 頑治さんがそんな事を云い出すのでありました。「社長は午前中に姿を見せなければ、その日は恐らく会社には来ないんじゃないですかね」
「午後からやって来る事は無いのかね」
 横瀬氏が頑治さんの顔を見るのでありました。
「これ迄の例からすると、社長の車が午後になってから駐車場に現れる事は、特別な用事が無い限り殆どなかったと思います。まあ、あくまでも俺が見た限りで、社長の車の在り無しから傾向を推察すると、と云う事になりますけど」
「確かにあの社長は、意外と律義に自分の決めた様式を守るところがあるかしらね」
 甲斐計子女史が頑治さんの推量を補強してくれるのでありました。
「云われてみればあの社長は、ウチの会社に顔を出すとすれば午前中に、と云う事が多かったかな。じゃあつまり、今日は社長は会社に遣って来ないと云う事だ」
 均目さんがまた顎を撫でるのでありました。「だったら土師尾常務は明日迄に社長に相談を持ち込む事は出来ないと云う事になるか」
「ま、電話と云う手段はありますけど」
 頑治さんは別の可能性も一応提示して置くのでありました。
「それはそうだけど、土師尾さんがこう云う件で、一々社長の家に電話を入れる事は無いんじゃないかしら。まあ、あくまであたしの想像だけど」
 甲斐計子女史が電話と云う線を否定するのでありました。
「でも、俺か別の誰か、或いは複数の誰かを辞めさせると云う謀は、既に社長と結託して遂行されている事かも知れませんよ。それに実は社長の考えに依るもので、土師尾常務は単にその意を受けて、実行に及んでいるだけかも知れませんよ」
 頑治さんが自分の推量を続けるのでありました。
「それはあるかも知れない」
 均目さんが頑治さんの推察に頷くのでありました。「会社の現状に関して、土師尾常務は実は、あんまり良好ではないだろうなあと云う薄ぼんやりした感触は持っていても、数字とかでちゃんとは掌握していないかも知れない。片久那制作部長が居た時もそんな風だったし。寧ろ現状を一応正確に認識している社長があたふたして、この人員整理と云う打開策を目論んだと考える方が、どちらかと云うとリアリティーがあるかな」
(続)
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