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あなたのとりこ 528 [あなたのとりこ 18 創作]

「取り敢えず明日、もう一度土師尾常務と話してみて、そこで片が付けは良いですが、埒が明かないようなら団体交渉を申し入れる事になります」
「その時は全総連からも何人か入る方が良い訳だね?」
「ええ。出来れば一緒に団交に加わっていただければ、と思っています」
 袁満さんは、ここは一つよろしくお願いするように頭を下げるのでありました。
「ところで唐目君に訊きたいが、具体的にどういう風に退職勧告を受けたのかな?」
 横瀬氏は頑治さんの顔を見るのでありました。
「二人だけで話したいことがあると社外に連れ出されて、先ず前振りとして思ったように業績が回復しないと切り出されたんです」
「で、だから会社を辞めてくれと?」
「いやまあ、すぐにそう云う話しになったのではなく、辞めた片久那制作部長が自己主張の強い人で、これ迄自分や社長が如何に手古摺らされてきたかとか、お客さんに対しても無礼窮まる態度を取るし、ちゃんとした社会人として疑問に感じるような事もしていたとか、まあ、そんなような自分には直接関係の無い恨み言を先ず、縷々聞かされました」
「ふうん。まああの人なら、そんな場違いな愚痴も平気で云い出しそうだな」
 横瀬氏は苦笑して見せるのでありました。
「好い加減そんな居ない人への恨み言をウジウジ聞かされるのも腹立たしいから、話そうとしている事を端的に話してくれないかと、少しせっかちに催促したのです」
「で、辞めてくれと?」
「いやそんなにすんなり話しする人でないのは、横瀬さんも知っているでしょう」
「まあ、それはそうだな」
 横瀬氏はまた苦笑うのでありました。
「それから再び業績が云々という言葉を重々しく繰り返して、此の儘では暮れの一時金も出せないし、それどころか今年一杯会社が持つかどうかも判らないと嘆いて見せて、この儘なら人員整理と云う事も本気で考えなくてはならないと、やっとそんな言葉が出て来たものだから、自分の方から、要するに自分に会社を辞めてくれと云っているのかと聞いたのです。まあ、こういう話しであろうとは端からから察しは付いていたんですけど」
「色々持って回って勿体付けて、こちらとしては全く本意ではなくて、無念ながらの苦渋の選択なのであると云う点を、ちょっと弱気にそれとなく仄めかせて見せた訳だな」
「まあ、そうでしょうね。そう云うところは全く非情な訳ではないと云う点で、まあ、あの人は根っからの悪人と云う事もないのでしょうけど」
「ふうん、成程ね」
 頑治さんの最後の土師尾常務評には興味を示さないで横瀬氏は何度か頷いて、来たばかりのコーヒーを如何にも熱そうに一口啜るのでありました。「で、唐目君が辞める意志が無いなら、誰か別の人に当たる心算だと云う風に話しが展開した訳だ」
「まあ、概ねそうですね。だからこれは自分個人の問題としてだけ考える訳にはいかないと判断して、予てからの申し合わせ通り組合に報告したと云う次第です」
(続)
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