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あなたのとりこ 527 [あなたのとりこ 18 創作]

「いいよ別に、今は」
 土師尾常務は均目さんから逐一、己の不当を云い立てられるのは何とも不都合と、大袈裟且つ荒々しく掌を横に振って見せるのでありました。
「じゃあ、今後不当労働行為に当たるような事はしないと誓約して下さい」
 袁満さんが詰め寄るのでありました。
「態々そんな誓約を僕にさせて、君たちは一体何をしたいんだ。僕が君達の前で怖れ畏まって、あたふたしながらみっともなく謝る姿を見て留飲を下げたいのか?」
「静穏な労働環境を得たいだけですよ。別に常務の醜態を見て喜ぶ悪趣味なんか更々ありませんよ。そんな事は全くどうでも良い」
 均目さんが蔑むような笑みを口の端に浮かべるのでありました。
「僕は謝らないし誓約とやらもしない」
「そんなに意地になって駄々っ子みたいに問題を拗らすのは馬鹿げていると思うけど」
 那間裕子女史も均目さんと同様の笑みを頬に刻むのでありました。
「意地になっているんじゃないし、自棄になっているんでもない。一人をいきなり大勢で取り囲んで、ああだこうだと難癖をつける君達の遣り口こそ問題なんじゃないか」
「ああだこうだと難癖をつけているんじゃなくて、社員を一人々々呼び出して退職を迫るような不当労働行為は止めてくれと、労働組合として申し入れしているだけですよ」
 袁満さんが少し怒気を見せながら云うのでありました。
「兎に角君達の遣り口はひどいと思う」
 土師尾常務は意地っ張りと体面上、なかなか引こうとしないのでありました。
「じゃあ判りました。これから全総連小規模単組連合贈答社分会はストに入ります」
 袁満さんはそう宣して土師尾常務の傍を離れるのでありました。皆もそれに従うのでありましたが、均目さんだけ残って、このストライキは半日ストで、明日になったら通常通り出勤する旨土師尾常務に告げてから皆の後を追うのでありました。

 そそくさと帰り支度を終えて、一行は揃って会社を出るのでありました。袁満さんと那間裕子女史は経緯報告のため全総連本部に向かうのでありました。他の連中は頑治さんが土師尾常務から退社勧告を受けた喫茶店に集って、二人の帰りを待つのでありました。
 三十分もしない内に袁満さんと那間裕子女史が全総連専従職員の、贈答社労働組合立ち上げ時から世話になっている横瀬兼雄氏を伴って喫茶店に入って来るのでありました。
「なんだか色々厄介な事になっているようだね」
 横瀬氏はそう云いながら着席するのでありました。それから遣って来たウェイトレスに袁満さん、那間裕子女史諸共にブレンドコーヒーを注文するのでありました。
「まあ、あの土師尾常務がすんなりこちらの云う事を聞く筈がありませんからね」
 均目さんが鼻を鳴らすのでありました。
「昨日袁満さんからちらっと電話を貰っていたから気にはしていたけど、詰まる所この事態収束のシナリオはちゃんと出来ているのかな?」
(続)
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