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あなたのとりこ 525 [あなたのとりこ 18 創作]

 袁満さんが本題を続けるのでありました。「唐目君はそう云う常務の目論見をとんでもないと思ったから全員に周知したので、これは組合員として当然の行為でしょう」
「その次に一体誰を標的にする心算だったのかしら」
 頑治さんの次に控えた那間裕子女史が土師尾常務を睨むのでありました。
「そんな事今ここで態々、僕の口から云う筈が無いだろう」
 土師尾常務は不快感と一緒に恫喝めいた仄めかしも言葉に込めるのでありましたが、弱気からか那間裕子女史の顔には決して視線を向けないのでありました。
「云って置きますが、我々は不当な解雇には誰も応じませんからね」
 袁満さんが語気が強めると、ここで予てからの打ち合わせ通り組合員打ち揃って、そうだ、とか、当然だ、とか、声高く合いの手を入れるのでありました。計算通り土師尾常務はその声に怯んで、そわそわと眼鏡の奥の眼球を何度も微動させるのでありました。
「今は仕事時間中で、こうして僕と喧嘩腰に討論している時間ではない筈だが」
 土師尾常務は当座の逃げを打つためかそう云うのでありました。
「ああそうですか。それなら向後一切、不当な解雇を画策しないと今ここで確約してくださいよ。そうしたらこれ以上は何も云わず解散しますよ」
「それは、まあ、出来ない」
 土師尾常務は気圧されて気持ちの上ではすっかり不利ながらも、常務としての体面があるためか容易には引かないのでありました。「第一、こうしていきなり僕を組合員全員で取り囲んで、脅かすような真似をするのは卑怯じゃないか」
「一人々々個別に喫茶店か何処かに呼び出して、正当な理由もなく会社を辞めてくれないかと持ち掛ける事こそ卑劣と云うものですよ」
「ちゃんとした理由はあるよ」
 土師尾常務は意地からそう強弁するのでありました。
「ほう、ではそのちゃんとした理由とやらを聞かせてくれますかね」
 土師尾常務の机を挟んで袁満さんや頑治さん、それに那間裕子女史の側とは反対側の列の一番前に立っていた均目さんが訊くのでありました。
「それは、・・・経営判断だからここでは云えないし、君達に云う義務も無い」
「それならそれで結構ですが、そうなると我々は不実で強権的である常務の態度に抗するために、今からストライキを宣言することになります」
「ストライキだって?」
 土師尾常務はその言葉に怯むのでありました。そんなものは許さない、とすぐさま大喝したいのは山々ながら、しかしそれが労働組合に対する不当な扱いに認定されないかどうか心配で、言葉を続ける勇気が無いようであります。
「そうです、ストライキです。それで以って上部にこの話しを報告して、全総連全体として常務の卑劣な画策にとことん対抗していきますよ」
 均目さんは別に激した風でもなく冷静にそう宣するのでありました。
「ちょっと唐目君に提案してみただけで、何でそんな大袈裟な事になるんだよ!」
(続)
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