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あなたのとりこ 522 [あなたのとりこ 18 創作]

「戻るのは昼の二時を回ってからになるかも知れないってよ」
 甲斐計子女史は土師尾常務からの電話を切った後、声を大きくして少し離れた自分の席に座っている袁満さんに冷笑混じりに告げるのでありました。
「ふうん、午後二時ねえ」
 袁満さんは憫笑するのでありました。「はいはい、了解しました」
 袁満さんのその返事に同調して甲斐計子女史も鼻を鳴らすのでありました。
 袁満さんにする報告の音声が大きかったから、甲斐計子女史は当然聞こえたものと考えてか、制作部の方へは敢えて報告は無いのでありました。まあしかし、制作部の方も三人も目を見交わしながら、やれやれと云った感じの失笑を漏らすのでありました。
 間を置かず、すぐに袁満さんが制作部スペースにやって来るのでありました。
「アイツは例に依って例の如く遅い出社のようだけど、午後二時辺りは制作部の三人は何処かに出掛ける予定はないのかな?」
「あたしは会社に居るわよ」
 那間裕子女史が最初に応えるのでありました。
「俺も今日一日、何処にも行かずに社内に居ますよ」
 均目さんが続くのでありました。
「俺も居ます。と云っても下の倉庫に、でしょうけど」
 頑治さんも袁満さんの方に身を捻じって頷きながら云うのでありましたが、丁度そこに日比課長が袁満さんを追って製作部スペースの方に姿を見せるのでありました。
「俺は午後一で浅草の取引先の方に行かなければならないよ、前からの約束で」
「ああそうなの。出し抜けだなあ。昨日はそんな事云っていなかったけど」
 袁満さんが得心がいかない様子で口を尖らせるのでありました。
「多分談判は朝一だと思っていたから、午後の予定は特に云わなかったんだよ」
「でも、アイツはほぼ毎日昼過ぎからの出社だと云うのは判っているんだし、午後出かける予定があるのなら、昨日の内に云って置いて欲しかったよなあ」
「うっかりしていたんだよ」
 日比課長は頭を掻くのでありました。
「仕様が無いなあ。じゃあ、日比さんは今日の談判は不参加と云うことになるんだね」
 袁満さんは聞こえよがしに舌打ちするのでありました。「まさかひょっとして、抜け目なく始めから遁ズラする魂胆でいたんじゃないだろうね?」
「そんな事はないよ。本当に午前中だと思っていたんだよ」
「ふうん、そうかねえ」
 袁満さんは疑わし気に小鼻の辺りに皺を寄せて笑うのでありました。
「じゃあまあ、組合員だけで談判ね」
 那間裕子女史が日比課長の件なんかすっかりどうでも良いような口振りで云うのでありました。どうせ日比課長は土師尾常務を怖じて初めから逃げる肚だったのだろうと、その心底を疾うに読み切って期待はしてなかったと云ったすげない云い様でありましたか。
(続)
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