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あなたのとりこ 517 [あなたのとりこ 18 創作]

 袁満さんはここで改めて怒り心頭に発す、と云う表情をして見せるのでありましたし、実際に心底から憤怒しているようでありました。それは土師尾常務の邪悪な謀を断固阻止するんだと云う、組合の委員長としての決意の表明のようでもありましたか。

 この頑治さんの報告を受けて日比課長も加えた全従業員に依る会議が持たれるのでありました。場所はこれも例に依って地下鉄神保町駅近くの居酒屋でありましたが。
「結局土師尾さんは、この会社をどうしたいのかしら」
 何時もの通り頑治さんと均目さんに挟まれた位地に着席した那間裕子女史が、ビールグラスを口元まで持ち上げながら首を傾げるのでありました。
「片久那制作部長が居なくなった後の、自分の会社での従業員の人望とか社長の受けとかを考えて、唐目君が目の上のたん瘤になるかも知れないと判断したんじゃないかな、それで先手を打つ心算で辞めさせようと目論んだんだと俺は思うよ」
 袁満さんが自説を披露するのでありました。
「いや、あの人は別に俺を、片久那制作部長のような恐るべき存在だとは、全く見做していないでしょう。厄介払いすると云うよりは、単に業務仕事は誰にでも出来る首の挿げ替えの利く職種だと考えて、それで俺に先ず辞めてくれと云ったんだと思いますよ」
 頑治さんは冷静ぶった語調で解説して見せるのでありました。
「まあ確かに、あの人は人を見る目がないから、多分唐目君の真価を全く判っていないでしょうね。大体あの人は自分以外の人には一切興味も無いしね」
 甲斐計子女史がウーロン茶を一口飲むのでありました。
「俺が退職勧告を拒否したら他の人に的を移す心算でいたようでしたから、要は誰でも良いから一人辞めさせようと考えていたんじゃないですかね」
「一人だけを辞めさせる心算、なのかしら」
 那間裕子女史が先程とは反対側に首を傾げるのでありました。
「と云う事はつまり、どう云う心算でいると思うんですか?」
 対面に座る袁満さんが那間裕子女史と同じような形で首を傾けるのでありました。
「ひょっとしたら最終的には社員全員を解雇する心算なのかも知れないわよ」
「そうなったら、会社は遣っていけないじゃないですか」
「会社解散を秘かに狙っているのかも知れないわ、社長と結託して」
 その那間裕子女史の説に袁満さんはギョッとして大袈裟に目を剥くのでありました。
「でもそうなら土師尾常務の居場所もなくなるでしょう。あの人はこの会社だから常務としてふんぞり返っていられるけど、他の会社では全く通用しない人だし」
「それはそうだけど、ひょっとしたら贈答社解散の後は、自分だけ下の紙商事で雇って貰えると云う密約が、社長との間にあるのかも知れないし」
「でもそうなら、今の贈答社で獲得している好待遇は期待出来ないでしょう」
「まあ、それもそうだけど」
 那間裕子女史はまた反対側に首を曲げるのでありました。
(続)
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