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あなたのとりこ 516 [あなたのとりこ 18 創作]

「土師尾常務の云った、唐目君を辞めさせようとする理由は何だい?」
「会社存亡の危機であるから人員整理の一環で、と云う事のようです」
「アイツは未だそんな事をほざいているのか!」
 袁満さんは声を荒げるのでありました。
「まあ、業務の仕事は俺じゃないと出来ない、と云う訳ではないから会社を辞めさせるとしたらそう云う俺から、と云うところでしょうね」
「だって唐目君は片久那制作部長が居た頃から、制作の方もやっているじゃないか」
「あれはまあ、云って見ればちょっとした手伝いみたいなもので、制作の仕事量が減れば俺が居なくても、均目君と那間さんの二人で充分動かせるでしょう」
「その辺は詳しくは判らないけど、でも結構、唐目君は片久那制作部長から頼りにされていたみたいな感じに受け取っていたけどなあ」
「ま、殊更そんな事もなかったと思いますよ」
 頑治さんはコーヒーを一口飲んでから少し身を背凭れの方に引くのでありました。
「でも俺の感触としては、唐目君は業務仕事とは別のところでも、会社に絶対必要な人材だと思っているけどねえ。実は俺は秘かに、片久那制作部長が居なくなった後では、会社の中で将来、唐目君が一番頼りになる存在になると考えているんだけど」
「いやあ、お世辞と勘違いか買い被りだとしても、有難いお言葉です」
 頑治さんは背凭れから身を起こして袁満さんに向かって、多少冗談交じりの仕草で以ってお辞儀をして見せるのでありました。
「均目君も那間さんも多分俺と同じ考えだと思うよ。甲斐さんだってそう感じていると思うし。まあそう思っていないのは薄ぼんやりしている日比さんと、人を見る目がない土師尾常務くらいだろう。社長にしたって唐目君にはちょっと目を掛けている節もあるし」
「でも土師尾常務が俺に会社を辞めろと促すのは、社長も承知の上じゃないですかね」
「いやいや、社長には適当な事を云ってあやふやにしているに決まっている」
 袁満さんは端から土師尾常務を信用していないのでありました。「でも、そう云う話しが土師尾常務からあったとなると、これは間違いなく組合案件だから、組合全員に呼集をかけて皆で対策やら対抗手段を話し合う必要があるな」
「土師尾常務には組合には未だ話すなと念押しされましたけど」
「そんな自分にだけ都合の好い云い草は通用しない」
「若し俺が辞職勧告を受け入れないとしたら、他の人にその対象を変えようと云う土師尾常務の目論見のようですから、その内緒にしておけと云う申し出は俺としてもはっきり断りましたし、それで袁満さんにこうして洗い浚い話しているんですけど」
「唐目君が内緒にしろと云う土師尾常務の申し出を断ったのは、全く正しい判断だよ」
 袁満さんはここで断固頷いて見せて、頑治さんの判断が絶対の是だと所作を以って請け合うのでありました。まあ別に頑治さんとしては、自分のその判断が間違っているかも知れないと云う不安は、殆ど抱いていなかったのでありましたけれど。
「全く土師尾常務には少しの油断もならないな」
(像)
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