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あなたのとりこ 510 [あなたのとりこ 17 創作]

 それに大方は片久那制作部長が居なくなっても、当面何とか会社は然したる滞りもなく動いているという感触を得て、少しは胸を撫で下ろしているのでありますから、その辺の実感は那間裕子女史も共通のものを持っていると思われるのであります。それとも何か他の連中とは違う、那間裕子女史だけが感じ取れるところの決定的な危機の予兆でもあるのでありましょうか。或いはまあ、要するにちょっとばかり思い過ごしているとか。
 ひょっとしたら均目さんとの仲が上手くいっていない、と云うのが気鬱の理由なのではないのかとも頑治さんは勘繰るのでありました。まあしかしこれは均目さんと那間裕子女史が好い仲であると云うのが大前提で、そうであるのやら、単なる気の合う同僚と云う程度の仲なのやら、その辺りの確証は頑治さんには無いのでありました。ただ、二人は言葉で仄めかしたり、或いはそんな素振りを見せりとかはなかなかしないけれど、恐らく九分方は好い仲なのではないかしらと云う推察は、頑治さんは有しているのでありました。
 片久那制作部長から引き継いだ仕事が手一杯で、均目さんが那間裕子女史の方を今迄のように構っていられなくなっているのが、那間裕子女史には不満なのであります。それにその程度であたふたしている均目さんに、女史は興醒めしたのかも知れません。
 こうなると嘗て山尾主任が会社を辞めた理由の、会社内での立場とか仕事の変更と、私生活上でのなさぬ仲の相手と上手くいかない鬱憤、と云う二つの要素が那間裕子女史にも当て嵌まる訳でありますか。那間裕子女史のこのところの変化はこれで何となく、ははあと得心のいく説明が出来るような気が頑治さんはしてくるのでありました。そう云えばこの二人を見ていると、頑治さんがこのところ均目さんと何となく疎遠になっているのと同じに、那間裕子女史も均目さんと心の距離が出来ているようにも見えるのであります。
 とは言っても、繰り返しになりますがこれはあくまで頑治さんの推察であります。確証なんと云うものは、何一つ無いのでありますけれども。・・・

 恐らく頑治さんを自分が新しく創るであろう会社に引き抜く心算でいたから、片久那制作部長は贈答社を辞める時に、事後の仕事の事を頑治さんには何も指示したりアドバイスしたりはしなかったのでありました。結局この事が頑治さんの制作部に於ける宙ぶらりんの立場を作って仕舞ったと云えるでありましょうか。均目さんとしても制作部内での頑治さんの扱いをどうしたものか、些かまごつくような事態になったのでありましょう。
 まあ、頑治さんとしても本来制作部要員として贈答社に入社した訳ではなかったし、偏に片久那制作部長の胸三寸で製作仕事に引っ張り込まれていたのであります。依って頑治さんはそれ程製作部での仕事に未練は無いのでありました。それは確かに、決まりきった倉庫業務や荷造り梱包の仕事よりは、面白味は感じてはいたのでありましたが。
 だから製作部でお呼びがかからなくなっても、頑治さんは然程に仕事意欲が減じる事はないのでありました。業務仕事の方が気楽で性に合っているのでありましたし、倉庫の整理整頓やら駐車場周りの掃除なんかも、そんなに嫌いな方ではないのでありました。頑治さんとしてはそんな風に何となく本来の自分の仕事に落ち着いていたのでありましたけれど、或る日、土師尾常務から話しがあると出し抜けに呼び出されるのでありました。
(続)
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