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あなたのとりこ 508 [あなたのとりこ 17 創作]

 頑治さんに関しては、均目さんが制作部を統括するようになってから制作部関連の仕事はグッと減るのでありました。これ迄殆どが、要するに片久那制作部長の助手みたいな仕事が多かったのでありましたが、片久那制作部長が居なくなったから、その手の仕事はほぼなくなるのでありました。均目さんとの関係がここにきて少し冷えたと云うのも仕事が減った一因であるかもしれませんが、均目さんとしても制作部に於ける頑治さんの扱いをどうしたら良いものか、少しの戸惑いがあると云った面も恐らくあるでありましょう。
 本来の出入庫の管理とかの業務仕事に関しても、袁満さんと出雲さんの出張営業が無くなった分仕事は減るのでありました。業績回復が遅れているのでありましたから、制作部関連の材料管理の仕事も商品配達とかの業務も以前程忙しくもないのでありました。
 依って頑治さんは手持無沙汰解消のため倉庫周りやビル前の道路の掃除とか、倉庫内の棚の整頓ばかりやっているような在り様でありましたか。まあ、楽と云えば確かに体は楽ではありましたが、こういう状態は自分にはあんまり合わないと頑治さんは思うのでありました。生来、人間が貧乏性に出来ているからでありましょうか。
 これは余談の内に入るのでありますが、社長から頑治さんを営業職として得意先回りさせてはどうだろうと云う提案があるのでありました。頑治さんの倉庫を管理する手堅そうな仕事振りや何時も掃除に勤しんでいる几帳面らしき態度、前の全体会議なんかで見せた目先の利く着想や話力を、恐らく社長が少し買ってくれたのでありましょう。
 しかしこれは土師尾常務に依って簡単に退けられるのでありました。つまり土師尾常務は、頑治さんを倉庫管理係や配達要員以上の人材とは端から評価していないようでありました。社長にその話を持って来られても、そんな事を考えている社長の、人を見る目の無さと見当違いを持て余すような冷笑を返しただけのようでありました。
 だからと云って頑治さんは土師尾常務を恨む気は全くないのでありました。それは特段営業と云う職種に興味も意欲も湧いていないからでありました。毎日一張羅のスーツを着込んで出勤すると云うのも、何だか窮屈で面倒臭そうでありましたし。
 それに頑治さんは気楽を尊ぶ人であります。抑々頑治さんが職安で今の仕事を紹介して貰う時に出した希望と云うのが、給料とか待遇は特に希望はないが、その日の内にその日の課業が完結するような小難しくない仕事で、格式張った服装をしなくて済む、比較的社風ののんびりした、冗談や洒落の判る上司の居る、あんまりこの先発展しそうにないながらもしかし、なかなか堅実に続いて行きそうな会社、と云うものでありました。
 こんな了見では営業の仕事は務まらないでありましょう。営業どころか、制作の仕事だって同じく覚束無いと云うものであります。制作部の仕事を手伝ったのは片久那制作部長の命があったからで、そちらの方に妙味を感じた訳ではないのであります。勿論、頑治さんとしては、どうしてかは良く判らないものの片久那制作部長の覚えの目出度さと期待には応えたいと、与えられた仕事には真剣に取り組んではいたのでありましたが。
 まあこう云った訳で片久那制作部長の居なくなった後、日常の業務は一見、何とか多少のギクシャクやら戸惑いはありながらも滞りなく運んでいるように見えはするのでありました。しかし会社の未来に関しては新しい暁光は全く射しては来ないのでありました。
(続)
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