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あなたのとりこ 505 [あなたのとりこ 17 創作]

「おや、またもやお揃いで」
 頑治さんは含むところがあったせいで、竟そんな風に声を掛けるのでありました。
「おう、そっちもお揃いで」
 袁満さんは照れなのかちょっとした対抗意識なのか、同じような事を頑治さんに云って片手を挙げて見せるのでありました。甲斐計子女史は頑治さんと那間裕子女史に目撃されたのが何やら気まずそうで、少し狼狽えるような素振りを見せるのでありました。
「今日の昼は鰻ですか天麩羅ですか?」
 頑治さんが袁満さんに訊くと那間裕子女史が大仰に反応するのでありました。
「へえ、それは随分豪勢な昼食ね」
「いや、今日は人生通りのいもやで豚カツ、ですよ」
「いもやの豚カツも昼食としてはまあまあの値段よ。それでもこの街の他の豚カツ屋に行くよりは、あそこの方が値段以上に美味しくはあるけど」
「あそこは何時も並ぶから、滅多に行かないんだけど、どうした訳か今日は覗いたら空いていたんで、これはチャンスと久しぶりに入ったんですよ」
「でも、いもやから帰って来るにしては方向が違うけど」
 那間裕子女史が小首を傾げるのでありました。
「その後で、ちょっと喫茶店に行っていたんですよ」
「ああ、例によってお決まりの昼休みコース、と云う訳ですね」
頑治さんは実はここは、お決まりのデートコース、と云おうとしたのですが、那間裕子女史が居たものだからそう云うからかいの言は、まあ、ちょっと控えるのでありました。
「そちらのお二人は何処で昼飯だったの?」
 甲斐計子女史が頑治さんに訊くのでありました。
「日貿ビルの地下の四川飯店で中華ですよ」
「へえ。偶に行くけど、あそこだって結構な値段じゃない」
「つまり四川飯店も、袁満さんと一緒に行く昼飯コースの一つですかねえ?」
 頑治さんにそう訊かれて甲斐計子女史はまた少し動揺を見せるのでありました。
「そうそう。四川飯店でも時々奢って貰う事もある」
 袁満さんの方は頑治さんの遠回しのからかいには特に反応しないで、そう云ってしきりに頷きながら無邪気そうに笑っているのでありました。
「何、袁満君、甲斐さんに昼食を、そんなにしょっちゅう奢って貰っているの?」
 那間裕子女史が少し詰問調で訊くのでありました。
「ええまあ、そう云う場合が多いかな」
 袁満さんはこれにもあっけらかんと頷くのでありました。
「まあ、奢ったり奢られたり、よ」
 甲斐計子女史の方がそう云い繕うのでありました。「あたしがご飯を奢った時は袁満君がコーヒーを奢ってくれるのよ」
「いもやの豚カツとコーヒーじゃ、全然釣り合わないじゃないの」
(続)
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