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あなたのとりこ 502 [あなたのとりこ 17 創作]

 日比課長は云ってみれば土師尾常務の二番手と云う存在だから、どちらかと云うと馘首にする方に入るのではないかと頑治さんは思うのでありました。しかし色々情勢が変わって、存分に報酬を得た上で最大限楽を決め込もうとするなら、日比課長を残す方が得策だと土師尾常務は判断を変える場合もあるかも知れません。少なくとも、上司として自分を敬いもしていない、相性の好くない袁満さんを残すよりはその方が都合が好いでありましょう。日比課長は袁満さんよりは扱い易いと屹度判断しているでありましょうから。
「でもそんな事をしたら均目君がおいそれとそれに従わないか」
「さて、どうでしょうかね。・・・」
 袁満さんはここで、あくまでも自分達従業員側の人間と見做している均目さんと云う要素を出して、自らのこの観測を結構簡単に打ち消して見せるのでありました。しかしそう打ち消して見せたけれど、それに対して頑治さんが捗々しく反応しないのに少し意外の感を持ったようでありました。頑治さんも屹度、それはそうに違いないと空かさず同意するものと踏んでいたのでありましょうけれど、これは些か見当外れでありましたか。
「あれ、そうなったら均目君はそれを受け入れると、唐目君は思っているのかな?」
「いや、そうなってみないと判りませんよ」
「均目君は俺達を裏切るかも知れないと云う事かな?」
「そう云っている訳じゃないけど、まあ、そうなってみないと判らないとしか云えないですね。それは袁満さんの頭の中で仮定された事でしかないんだから」
「確かにそうだけど。・・・」
 袁満さんは口を尖らすのでありました。「最近、唐目君は均目君と何かあったの?」
「いや、特には何も」
「唐目君は均目君と同い歳だし、すっかり気が合う同士だとばかり思っていたけど」
「気が合おうが合うまいが、その事とは別に、今の話しはあくまで袁満さんの考えた仮定の話しだから、今ここでは何とも云えないと云っているだけですよ」
 そう云って言葉を濁してはみるものの、袁満さんは頑治さんのこれ迄とは違う、均目さんに対する冷えみたいなものを敏く感じ取ったと云う事でありますか。
「確かに不安に駆られて、持て余して家の布団の中で、何やかやと悪い方に悪い方にと推理した事で、現実にそうなると決まった訳じゃ全然ないしなあ。あんまり先回りしてくよくよ考えても仕方が無いか。結局なるようにしかならないものなあ」
 袁満さんはそう云って少し無理するように笑って見せるのでありました。
「まあ、これから先は出たとこ勝負と思っていた方が、何かと気楽ですよ」
「そりゃそうだ。未だ何も起こっていないのにあたふたするのは馬鹿げているか」
「そうですよ。どう転んでも命を取られる訳でもないんだから、気楽に行きましょうよ。俺の云いたいのは、まあつまりそう云う事です」
「うん。先回りして気鬱になるより、そう開き直っている方が何かとさっぱりしている。流石に唐目君はこうして見てみると、気持ちの強い人なんだなあ」
「いやいや、要するに鈍感で大した器量も無いから目先が利かないだけですよ」
(続)
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