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あなたのとりこ 493 [あなたのとりこ 17 創作]

「お二人は何処で食事を摂ったんですか?」
「甲斐さんに鰻丼をご馳走になったんだ」
 袁満さんが云うと、どう云うものか甲斐計子女史がちょっとそわそわする様子を見せるのでありました。別に甲斐計子女史が袁満さんに鰻丼を奢ったからと云って、それを頑治さんが妙に思うような事でもないのでありましたから、このそわそわの素振りは一体どういう謂いでなされたのか頑治さんは良く判らないのでありマました。
「へえ、鰻丼ですか。なかなか豪勢な昼飯ですね」
「奢って貰いっ放しじゃ悪いから、食事の後で集英社の別館の傍に今度新しく出来た喫茶店で、俺がコーヒーをお返しして、その帰り道で唐目君と出くわしたと云う事だよ」
「ああそうですか」
 頑治さんはニコニコと笑って袁満さんと甲斐計子女史を交互に見るのでありました。
 ここでも甲斐計子女史が妙にもじもじするのは、これまた意味不明な仕草と云うべきであります。ひょっとしたら昼休みに袁満さんと甲斐計子女史が、秘かにデートをしているのではないかと勘繰られるのを恐れての事かも知れないと頑治さんは考えるのでありました。別にデートであろうとそうじゃなかろうと頑治さんには無関係な事でありますが。
 事務所に戻ると何となく均目さんが居るであろう制作部スペースに行くのはちょっと憚られたので、頑治さんは袁満さんの机の後ろの応接スペースの三人掛けのソファーに座って、そこに置いてあった日経新聞を広げるのでありました。
「午後は梱包とか配達の仕事かあるのかな?」
 袁満さんが座った事務椅子をくるっと回して頑治さんの方を向くのでありました。
「いや、午後一番で制作の仕事で、上落合に住んでいるカートグラファーさんの家に製図原稿を届けに行く仕事が入っていますよ」
「落合、と云うのは何処かな?」
 袁満さんは小首を傾げて頑治さんを上目に見るのでありました。
「高田馬場から一つ先の西武新宿線の下落合駅の近くですよ」
「電車で行くの?」
「いや、原稿と云ってもちょっと大判のものだし、その他に資料のための本とかも幾つか持って行くんで、車で行こうと思っています」
「ひょっとして新宿駅は通るかな?」
「ええ。靖国通りを新宿迄行って小滝橋通りに入るルートですから、通り道ですよ」
「それじゃあ、俺を新宿まで乗せて行ってくれないかな」
 袁満さんは自分の鼻を指差して見せるのでありました。
「それはお安いご用ですが、新宿の何方ですか?」
「歌舞伎町の方だけど、新宿の大ガードの辺り処で良いよ。車で行くと、新宿は駐車する場所がないから電車で行こうと思っていたんだよ」
「いやまあ、何でしたらちゃんと目的地まで送りますよ。新宿の何処に行くんですか?」
「西武新宿駅のペペの二階の喫茶店なんだけどね」
(続)
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