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あなたのとりこ 491 [あなたのとりこ 17 創作]

「成程ね。それはそうかも知れないし、そう考えるのは均目君の自由だ」
「何かすっきりしないもの云いだな。それに妙に他人事みたいな云い方だ。この件は唐目君の身の振り方とか将来にも関わる事でもあるじゃないか。唐目君は一体この片久那制作部長の誘いのどこが気に入らないんだろう?」
 均目さんは咀嚼を止めて頑治さんを上目遣いに見るのでありました。
「まあ、好い話しだとは思うよ。でもその好い話しにおいそれと乗っかるのは、嫌に抜け目がなくて図々しいように思えてならないと云うところかな」
「世の中はきれい事だけではなかなか遣っていけないぜ」
「でもちっとばかり抜けたところがあっても、何とかかんとか遣っていけはするさ」
「要するに唐目君としては、倫理に於いて、この片久那制作部長の誘いにすんなりと乗っかるには、大いに抵抗があると云う訳だな」
「倫理とか云うよりも、何となく自分の流儀に合わない、とでも云うのかな」
「生きていく上での流儀、と云う事かい?」
「好み、と云っても云いよ。俺の心根としてはもう少し感覚的なところなんだけどな。何だか均目君のもの云いはちょっと大仰な気がする」
「生理的な嫌悪感があると云う事か」
「そう云う云い草にしても、矢張り妙に大仰だ」
 頑治さんは均目さんの顔から目を外して苦笑うのでありました。「俺はこう見えてもなかなかのエエ格好しいだから、野暮は、どうにも好まない」
「片久那制作部長の誘いに乗るのが野暮と云う事かい?」
「それも野暮に思えるし、それ以前に大仰なもの云い自体が野暮だし」
 こう云われて均目さんは少しムッとした表情をするのでありました。
「生きていくのに野暮も粋もないだろう。実人生としては皆もっと必死な辺りで生きているんじゃないのかな。ちゃらちゃらしていては着実な実人生は手に入れられないぜ。こう云うとまた唐目君は野暮と云うのだろうけど」
「別に自分の生を大仰に考えたり云ったりしなくても、誰だってちゃんと、死ぬまでは生きるものさ。肩肘張って生きていると、ストレスで折角の生の長さを縮めるぜ」
 別に自分としてはちゃらちゃらとかしている訳ではないんだけどと、頑治さんは均目さんの云い方に幾分引っ掛かるのでありましたが、まあそこで態々引っ掛かって見せるのもそれこそ野暮と云うものでありましょうから、あっさり聞き流すのでありました。
「俺の寿命迄心配してくれて、礼を云うよ」
 均目さんは当て擦りのようなもの云いをするのでありました。その云い草も頑治さんは敢えてさらっと聞き流す事にするのでありました。この後は何となく二人して口が重くなって、ただ黙々と咀嚼筋と手を動かしているのでありました。
 殆ど餃子ライスを平らげたところで、箸を置きながら頑治さんが訊くのでありました。
「で、結局、均目君は片久那制作部長の誘いに乗る心算なのかな?」
 均目さんは頑治さんに対する冷淡を目元に湛えて見返すのでありました。
(続)
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