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あなたのとりこ 474 [あなたのとりこ 16 創作]

「じゃあ、制作部の方は片久那さんが居なくても何とかなるとして、営業の方はどうなるのかしらね。こちらは従来と何も変わらないのかしら?」
 甲斐計子女史は横を向いて自分の左隣りの日比課長の顔を見るのでありました。
「そうねえ、特に変わらないと云えば変わらないかな」
 日比課長はそう云って、別に質問をした甲斐計子女史が酌をしてくれる様子でもなさそうなので、自ら徳利を傾けて自分の猪口に日本酒を注ぎ入れるのでありました。
「変わるよ!」
 袁満さんが日比課長に断固異を唱えるのでありました。「日比さんは当座の自分の仕事だけしか頭に無いいから、特に変わらない、とか好い加減な事を云うんだよ。出雲君が居なくなって地方特注営業が無くなると思ったら大間違いだぜ。今度は日比さんがそっちに回されて、追い詰められて会社を辞める羽目になるかも知れないじゃないか」
「地方特注営業は、これで立ち消えになるんじゃないかな」
 日比課長は未だ楽観の座布団の上に座って猪口を傾けているのでありました。
「それは甘いと思うわよ、あたしも」
 甲斐計子女史が眉根を寄せるのでありました。「土師尾さんは、今度は日比さんにターゲットを絞って、会社を辞めさせるように露骨に意地悪し出すに決まっているわよ」
「あたしもそう思うわ」
 那間裕子女史にもそう云われて、日比課長は自分の右隣の甲斐計子女史から、真正面の那間裕子女史の方にも首を九十度回してキョトンとした顔を向けるのでありました。
「何だか当事者意識の薄い、如何にも鈍そうな顔だなあ」
 袁満さんが日比課長の横顔に向かって云うのでありました。日比課長が少し険しい表情で今度は左側の袁満さんを見るのは、鈍いと云われて憤慨したからでありましょう。
「だって俺が辞めたら、土師尾常務は楽が出来なくなるじゃないか」
「それは前にも聞いたよ」
 袁満さんはビールを一口飲むのでありました。確かにそう云う話しを前にした事があるのでありました。その折も日比課長はどこかのほほんと構えて馬耳東風を決め込んでいたのでありまあしたか。そう云う運びに現実味を感じられないのでありましょう。
「でもどんな場合でも土師尾常務は自分が楽をする術を考え出すんじゃないかな、例え日比さんが居ようが居まいが無関係に。そんなヤツだよ、あのインチキ増長野郎は」
 袁満さんがそう云うと甲斐計子女史も那間裕子女史も冷笑を頬に浮かべて、インチキ増長野郎と云う呼称も込みで同意の頷きをするのでありました。
「日比さんを地方特注営業に回して、前の山尾さんの場合のように自分の代わりに骨身を惜しまず働く手下として、今度は均目君を営業に引っ張り込むかもしれないわね」
 那間裕子女史が右隣の均目さんのグラスにビールを注ぎながら云うのでありました。
「いや、寧ろ那間さんが営業にコンバートされるかも知れないぜ」
「それはどうかな。あんなインチキ増長野郎でも、那間さんを相手に遣りたい放題は出来ないんじゃないかな。そんな事をしたら逆にすごい剣幕で食って掛かられそうで」
(続)
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