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あなたのとりこ 468 [あなたのとりこ 16 創作]

 袁満さんが思わず怯むのを確認して片久那制作部長は続けるのでありました。「出張営業にしてもあの人は実情を何も理解していない。単に俺が出している数字を見て、ねちねちと袁満君に難癖を付けているだけだ。あんな大した論拠もない御託に、どうして袁満君が反駁しないのか得心がいかなくて、何時も苛々しながら不思議に思っていたよ」
「まあ、先ずは面倒くさいから、の一言ですかね」
 袁満さんは弱々しく一応弁明するのでありました。
「袁満君は小心者だからなあ」
 日比課長が先程の意趣返しとばかり皮肉な笑みを頬に浮かべるのでありました。「頭ごなしに強い口調でがみがみ云われると、すぐに金玉が縮み上がって仕舞う」
 この日比課長の些か品位に欠ける表現に、甲斐計子女史と那間裕子女史が眉根を寄せてげんなり顔をして見せるのでありました。まあ、日比課長は女性陣に顰蹙を買うような事を態と口の端に上せて面白がると云う、ある種の悪趣味の人でもありますけれど。

 頑治さんが咳払いをしてから喋り始めるのでありました。
「片久那制作部長は、それは無いのかも知れないけれど、若し社長が考え直して、会社に残ってくれと引き留めに掛かったとしても、結局辞める決心は変えないのですかね?」
「まあ、そうだな」
 片久那制作部長は頑治さんを一直線に見るのでありました。
「もう社長とこれ以上付き合うのは、まっぴらご免だと云う事ですね?」
 頑治さんは念押しするのでありました。
「それに土師尾常務ともね」
「それじゃあ、同時に俺達と付き合うのもこれ以上はご免だと云う事ですかね?」
 そう訊かれて片久那制作部長の目に少し動揺の色が浮かぶのでありました。
「ああそうか。つまり俺達にも愛想が尽きたと云う事か」
 袁満さんが顎を撫でながら頷くのでありました。「大して仕事も出来ないし、出来ないなら出来ないなりに懸命に打ち込もうとする意気地も窺えないし、面倒見切れないからそんな社員達も、この際纏めて打っちゃって仕舞おうと云う魂胆ですか」
「袁満君は良く自分の事が判っているようじゃないか」
 片久那制作部長は袁満さんを睨みながらさらりと頷いて、頬に冷笑を浮かべて見せるのでありました。そんな当て擦りの言葉なんぞは屁でもないと云うところでありますか。寧ろ木乃伊取りが木乃伊で、袁満さんの方がそわそわと狼狽を見せるのでありました。
 確かに片久那制作部長にしてみれば社長や土師尾常務に限らず、自分以外の誰もが歯痒いくらいに無能で優柔不断で好い加減で、御し難い程の盆暗に見えるのでありましょう。そう云う奴原は纏めて疎み遠ざけるに限ると云うものであります。これ以上付き合うのはもううんざりであり癪にも障るから、只管手間と時間の無駄でありますか。
 しかしそう簡単に肯われると、これはもう立つ瀬も無いと云うものであります。袁満さんは少しばかり控え目にではありますが口を尖らせて見せるのでありました。
(続)
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