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あなたのとりこ 465 [あなたのとりこ 16 創作]

「社長は会社を畳む心算で、片久那さんにそんな仕打ちをしようとしたのかしら?」
 那間裕子女史が小首を傾げるのは社長の本心を量りかねての事でありましょう。
「そうかも知れないけど、社長が自棄を起こして会社を畳んだら、土師尾常務が行き場を失くして困るんじゃないかな。この会社に居ればこその好待遇と勝手放題なんだから」
 均目さんが同じく小首を傾げて、土師尾常務の立場に言及するのでありました。
「社長としては会社を放り出す気は今のところ無いんだと思うよ。そこ迄本気で覚悟している訳じゃなくて、どうしたら俺をギャフンと云わせる事が出来るか、その辺の意趣返しの魂胆だけで云っているだけのように思うよ」
 片久那制作部長が均目さんの顔を見ながら云うのでありました。
「そんな子供じみた魂胆だけで!」
 那間裕子女史が呆れるのでありました。
「でもあの社長の事だから要は後先の考えはなくて、本当にその程度かも知れない」
 日比課長がシニカルな笑いを口の端に浮かべるのでありました。
「でも片久那さんが辞めると云ったら、別に引き留めなかったんでしょう?」
 甲斐計子女史が片久那制作部長を上目遣いに見ながら訊くのでありました。
「その場では興奮して意地になって突っ張っていたけど、後で考えてみて怖くなって、明日になったら昨日の事は忘れてくれと愛想笑いしながら謝って来るかも知れない」
 袁満さんが片久那制作部長に代わってそんな観測を述べるのでありました。
「いや、俺が会社を辞める事に関しては、社長はもう敢えてそれを止める心算はないだろうな。その方が社長には色々好都合なところもあるんだろうから」
 片久那制作部長は袁満さんの観測をすげなく否定するのでありました。「当初は色々とあたふたしていても、会社を畳むと云う考えは多分頭の中には全く無いと思うよ」
「でも片久那さんが居なくなったとしたら、結局この会社は立ち行かなくなるんじゃないかしら。で、遅かれ早かれ会社も解散になるんじゃないかしらね」
 甲斐計子女史は暗い観測を口にして沈痛な面持ちをするのでありました。
「大丈夫だろう」
 方久那制作部長はあくまで楽観論に徹するのでありました。「俺が居なくなっても、何とか会社は回っていくよ。どんな組織でも大体はそんなものだ」

 那間裕子女史がここで舌打ちするのでありました。その音が少しばかり狙ったよりは高らかに響いた事に女史は少しおどおどするのでありました。
「辞めていく人は何時もそう云う無責任な事を云うのよ」
「そう云うのじゃない」
 片久那制作部長は少し気色ばむのでありました。「どうにもならないように見えても、大概の事は何とかなるものだ。君等が本気で何とかしようとするなら、だが」
「気持ちだけで会社が回っていくのなら、こんな簡単な話しは無いわ」
「誰も気持ちだけとは云ってはいない」
(続)
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