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あなたのとりこ 463 [あなたのとりこ 16 創作]

 袁満さんが日比課長の思い当る節がありそうな云い方に驚くのでありました。
「昔から社長は株をやっていたよ。まあ道楽みたいなものかな」
「その道楽に、誤魔化した会社の金を注ぎ込んだ、と云う事になる訳ね。酷いわね」
 那間裕子女史が憤慨するのでありました。
「それは横領、と云う風にも云えるんじゃないのかな」
 均目さんも目を怒らすのでありました。「社員の一時金を出し惜しんで、その分を秘かに会社の業務とは全く関連の無い、株の購入と云う私的な楽しみに遣い込んだ訳だから」
「そう云うところのある人よ、あの社長は。それを別に後ろめたくも思わないし」
 甲斐計子女史がシニカルな笑いを浮かべるのでありました。
「その辺を片久那制作部長にジワジワと突かれたら、それは社長もオロオロするしかないかな。下手をすれば犯罪行為と云われ兼ねないからね」
 均目さんが甲斐計子女史と同じような笑いを口の端に浮かべるのでありました。
「そりゃあ、片久那瀬利作部長と土師尾常務を役員待遇にして、俺たち以上に優遇しなければならなくなった訳だ。ふうん、成程ね」
 袁満さんが思わずそう云い出すと他の皆は夫々、片久那制作部長の手前、少し居心地悪そうにもじもじと或いはそわそわと佇まいを改めるのでありました。
「そこを指摘された社長は良心の呵責を感じて、すっかり観念したのかしら」
 那間裕子女史が少し間を取ってから片久那制作部長に問い掛けるのでありました。
「いいいやどうしてどうして。社長もなかなかの狸だからなあ」
 片久那制作部長は苦笑するのでありました。「ああ成程そうなりますかねえ、なんてしれっと云って、まあ内心の動揺はあったろうけど平然を装っていたよ」
「これが土師尾常務だったら、弱みを突かれたら反射的に逆上して、すぐに大騒ぎし始めるんだろうな。その点社長は人生経験が常務より豊富だから、余程性根が座っている」
 日比課長が社長を変な風に持ち上げるのでありました。
「あのう、若し話しが長くなるようなら、お茶でも淹れてこようか?」
 甲斐計子女史がここで今迄の話しとは無関係にそんな事を提案するのでありました。
「それとも場所を変えるか?」
 日比課長がこう云うのは居酒屋か何処かで酒の入った猪口でも遣り取りしながら、じっくり腰を据えて話しをしようかと云う提案でありましょう。
「いや、お茶も場所変えも要らないわ」
 那間裕子女史がきっぱり云うのでありました。余計な事をしないで、今この場で話しに集中しようと云う意でありましょう。それともこの後何か私用があって、実は早く話しを切り上げて家に帰りたいと云う肚であるのかも知れません。ただ話しの内容が内容なだけに、うっかり軽々にそれを云い出せないと云う板挟みの悩ましさでありますか。
「結局、片久那制作部長は、どう云った理由で会社を辞める事にしたのですか?」
 那間裕子女史の思いを察したから、と云う訳では別にないのでありますが、頑治さんが話しを迂路から大筋の辺りに戻そうとするのでありました。
(続)
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