あなたのとりこ 462 [あなたのとりこ 16 創作]
「それはそうですね」
袁満さんが納得気に頷くのでありました。
「そうしたら、実際の数字の三倍の額が計上してある」
「実際の数字の三倍!」
均目さんが大仰に驚いて開けた口を閉じないのでありました。
「そうだ。少し多めに見積もっているから三倍以上と云う事になる」
片久那制作部長は云った後に口を尖らせて頷くのでありました。「次にこちらで見当がつくのが人件費だが、これにしてもそうだ」
「人件費も片久那さんが、従業員全員の一時金の額も、残業代を含めた毎月の賃金も何時も計算しているから、これも確かに誤魔化し様がない数字だわね」
甲斐計子女史が先の袁満さんのように頷くのでありました。
「そうしたらこれも約二倍、迄はいかないけど、それに近い額になっていた」
「二倍に近い額!」
今度は日比課長が口を閉じないのでありました。
「まあ、他の勘定項目に関しても何やかやと問題が一杯あったよ」
「各項目の数字を適当に上乗せしていた訳ね、社長が」
那間裕子女史が舌打ちするのでありました。
「そんなに上乗せしていれば、経営ピンチを装う数字に簡単に偽装出来るよなあ」
均目さんが眉根を寄せるのでありました。「それじゃあ、売り上げが落ちて一時金が出せないと云うのは真っ赤な嘘で、本当は出しても充分な余裕があったって事か」
「道理で、賃上げとかはこっちが驚くくらい気前良く出した訳だ」
袁満さんが唇を引き結んで悔しそうな顔をするのでありました。
「いやまあ、決算の数字の出鱈目さは出鱈目さなんだけど、前の期と比べて売り上げがかなり落ちていて、先が見通せないと云うのは確かに嘘ではないが」
片久那制作部長がそう付け加えるのは、暮れのボーナスを前例のない金一封みたいな風にした事に、自分も一枚噛んでいたと云う疚しさがあるからでありましょうか。云ってみれば片久那制作部長も、社長の一時金支払い逃れに結託していた事になると頑治さんは考えるのでありました。しかしそう考えるのはどうやら頑治さん一人のようで、他の皆はそこには殆ど拘りを持たないようでありましたか。しかし皆も実は拘りを持ったけれど、片久那制作部長がおっかなくてうっかりした事は云えないでいるのかも知れませんが。
「そうやって誤魔化して置いて、社長はそのお金をどうする心算だったのかしら」
那間裕子女史が首を傾げるのでありました。「只管貯め込む心算だったのかしら?」
「そうじゃない。株だよ」
片久那制作部長があっさり種明かしするのでありました。
「ああ成程ね。矢張り株を買うのにこっそり流用していたのか」
日比課長が露骨に愛想尽かしするような顔をするのでありました。
「社長は株をやっているの?」
(続)
袁満さんが納得気に頷くのでありました。
「そうしたら、実際の数字の三倍の額が計上してある」
「実際の数字の三倍!」
均目さんが大仰に驚いて開けた口を閉じないのでありました。
「そうだ。少し多めに見積もっているから三倍以上と云う事になる」
片久那制作部長は云った後に口を尖らせて頷くのでありました。「次にこちらで見当がつくのが人件費だが、これにしてもそうだ」
「人件費も片久那さんが、従業員全員の一時金の額も、残業代を含めた毎月の賃金も何時も計算しているから、これも確かに誤魔化し様がない数字だわね」
甲斐計子女史が先の袁満さんのように頷くのでありました。
「そうしたらこれも約二倍、迄はいかないけど、それに近い額になっていた」
「二倍に近い額!」
今度は日比課長が口を閉じないのでありました。
「まあ、他の勘定項目に関しても何やかやと問題が一杯あったよ」
「各項目の数字を適当に上乗せしていた訳ね、社長が」
那間裕子女史が舌打ちするのでありました。
「そんなに上乗せしていれば、経営ピンチを装う数字に簡単に偽装出来るよなあ」
均目さんが眉根を寄せるのでありました。「それじゃあ、売り上げが落ちて一時金が出せないと云うのは真っ赤な嘘で、本当は出しても充分な余裕があったって事か」
「道理で、賃上げとかはこっちが驚くくらい気前良く出した訳だ」
袁満さんが唇を引き結んで悔しそうな顔をするのでありました。
「いやまあ、決算の数字の出鱈目さは出鱈目さなんだけど、前の期と比べて売り上げがかなり落ちていて、先が見通せないと云うのは確かに嘘ではないが」
片久那制作部長がそう付け加えるのは、暮れのボーナスを前例のない金一封みたいな風にした事に、自分も一枚噛んでいたと云う疚しさがあるからでありましょうか。云ってみれば片久那制作部長も、社長の一時金支払い逃れに結託していた事になると頑治さんは考えるのでありました。しかしそう考えるのはどうやら頑治さん一人のようで、他の皆はそこには殆ど拘りを持たないようでありましたか。しかし皆も実は拘りを持ったけれど、片久那制作部長がおっかなくてうっかりした事は云えないでいるのかも知れませんが。
「そうやって誤魔化して置いて、社長はそのお金をどうする心算だったのかしら」
那間裕子女史が首を傾げるのでありました。「只管貯め込む心算だったのかしら?」
「そうじゃない。株だよ」
片久那制作部長があっさり種明かしするのでありました。
「ああ成程ね。矢張り株を買うのにこっそり流用していたのか」
日比課長が露骨に愛想尽かしするような顔をするのでありました。
「社長は株をやっているの?」
(続)
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