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あなたのとりこ 453 [あなたのとりこ 16 創作]

「さあ知らない。それはもう俺には関わりの無い事になる」
 片久那制作部方は不愉快そうに慎につれない事を云うのでありました。
「そんな無責任な」
 那間裕子女史が憤慨したような目で片久那制作部長を睨むのでありました。その視線に臆した訳ではないでありましょうが、片久那制作部長は苦笑うのでありました。
「まあ、常務を中心に纏まって会社を盛り立てていって貰う事になるだろうよ。制作の仕事は既存の地図とか冊子類、それに工作物に関しては修正作業とかはこれ迄遣っていた通りだから問題無いだろう。商品管理や材料管理に関しては唐目君が疎漏なくちゃんと心得ているから、唐目君と密に打ち合わせを取っていれば、材料や商品類の発注とか製本関連の仕事も、つまり営業とのスムーズな連関も、均目君はなんとか熟せる筈だ」
「しかし制作部全般の管理とかなると、ちょっと自信が無いですよ」
 均目さんが眉根を寄せるのでありました。
「それは次第に慣れて貰うしかないし、多少煩わしいけど、そんなにくよくよする程大変な仕事ではないよ。これ迄よりも少し細心さを心掛ければな」
 こう云う辺り、片久那制作部長は均目さんの仕事振りにもっと細心さが欲しいと日頃から思っていると云う事でありますか。「那間君は、仕事は少し遅いけど、様々な修正作業とか編集仕事に関しては、まあまあそつが無いからこれも多分大丈夫だろう。管理の仕事も少しは分担して貰えば均目君も助かるだろう。ただ、懸念と云えば、毎朝のほほんと朝寝なんかしていないで、ちゃんと始業時間迄に会社に出て来るなら、特に問題は無い」
 那間裕子女史に関しては、時間のルーズさを一番苦々しく思っていると云う事でありますか。「唐目君は業務仕事では、各商品在庫と営業の動きとの兼ね合いとか、その辺にもちゃんと目配りも手配も疎漏無く出来るし、制作や編集仕事に関しても、もう充分戦力になる。第一出張営業が無くなったから、様々煩雑だった業務仕事が一つ無くなっている」
 頑治さんは片久那制作部長が云う程、自分が業務仕事に於いても製作仕事に於いても、頼りになる社員であるかどうかはあんまり自信が無いのでありました。依って頑治さんは片久那制作部長の評言に対して、小首を傾げて自信の無さを表明するのでありました。
 とまれ、片久那制作部長としては自分が会社を辞めたとしても、制作部の仕事は然程に混乱はしないし、滞りも起こらないだろうと考えているようであります。まあ勿論、会社に残る均目さんや那間裕子女史、それに頑治さんに対して、そう云わないと責任上、会社を辞め辛くなると云うある種の引け目みたいな気持ちもあるでありましょうし。
「慣れて仕舞えば、この会社の仕事でそんなに難しいものは何も無いよ」
 片久那制作部長はそう云って確信あり気に一つ頷くのでありました。
 しかし均目さんとしては仕事量がまた増えるのと、これ迄より格段に責任が重くなるのが大儀と云ったところでありますか。しかしこれは、取締役になると云う目はないとしても、課長とか部長待遇になってその分の手当がちゃんと付けば、それはそれで納得も出来ようと云うものであります。那間裕子女史の方は三鷹の専門学校通いとか、会社での仕事以外のところで実現したい志望もある事から、色々悩ましいところでありましょうか。
(続)
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