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あなたのとりこ 445 [あなたのとりこ 15 創作]

 要するに袁満さんとしては、自分の部下のような存在だった出雲さんが愈々会社を辞める事を公然化した事に、矢張り平静ではいられないのでありましょう。だから那間裕子女史や日比課長の言葉が如何にも無神経で不謹慎で苛立たしく聞こえて、竟々過敏な反応をして仕舞うのでありましょう。まあ、判るような気が頑治さんはするのでありますが。
「別に突っかかってなんかいないよ」
 袁満さんは日比課長を見ないで、しかしこれも不機嫌な口調で云うのでありました。
「片久那制作部長は一体どういう役回りを今、下で演じているんだろう」
 均目さんが顎を撫でるのでありました。
「例に依って、これ以上ないと云うような仏頂面で一言も喋らないで、兎に角立ち会う、と云ったスタンスでその場に座っているんじゃないのかしらね」
 那間裕子女史が社長室の様子を想像するのでありました。
「そうやって腕組みとかされて片久那制作部長に不機嫌に座っていられると、その場の人間は何となく妙な威圧感を感じて居竦んで仕舞うだろうけど、それはつまり出雲君への威圧の心算なんだろうか。それとも土師尾常務と社長に対するものだろうか?」
「それは多分、土師尾常務と社長への威圧感を醸し出しているんだろう。別に辞めていく出雲君をおどおどさせる必要なんかな無いし」
 日比課長が均目さんと同じように顎を撫でるのでありました。
「まあ、それはそうかな」
 均目さんは顎を撫でる指の動きを止めて、一つ頷くのでありました。

 そうこうしている内に、案外早く出雲さんが一人だけで上の事務所に戻って来るのでありました。そのドアが開け閉めされる気配を察して、制作部スペースに居た全員は、今度は営業部スペースの方にゾロゾロと移動するのでありました。
 皆は自席に座った出雲さんを取り囲むのでありました。これまで動かないでいた甲斐計子女史も、今度はその馬蹄形の囲みの中に遠慮がちに加わるのでありました。
「下で何の話しをしていたの?」
 那間裕子女史が訊くのでありました。
「まあ、これまでお世話になりましたとか、そう云ったありきたりの話しですよ」
「どうして辞めるのかとか、妙に根掘り葉掘り、場合に依っては詰るような調子で何やかやと文句を付けられたり露骨に愚痴を零されたりしなかったの?」
「まあ、土師尾常務からは冒頭そんな事もチョロっと云われそうになりましたけど、片久那制作部長がすぐに現れて、それを制止てくれて、まあ、後は比較的和やかに、これ迄ご苦労さんとか、そんな感じの対応になりましたかね」
「社長も何も云わなかったの?」
「そうですね。今君が辞めるのは残念だとか、まあ別に引き留めようと云う口調でも無かったですけど、一応の愛想でしょうけど穏やかにそんな事も云って貰えました」
「ふうん。じゃあ、穏便に辞意は受け入れられたと云う事ね?」
(続)
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