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あなたのとりこ 443 [あなたのとりこ 15 創作]

 片久那制作部長が事務所を出て、ドアが完全に閉まる音を聞いてから均目さんが頑治さんの方に顔を向けて話し掛けるのでありました。
「社長室の中で土師尾常務と、それに社長と片久那制作部長も含めて、三人で出雲君を取り囲んで一体何を話し合うんだろうな?」
「三人で出雲さんを取り囲んで、と云うのは、場の雰囲気を表現する言葉としてちょっと違うかも知れない。後から加わる片久那制作部長の立ち位置が、土師尾常務や社長と同じ側にあるのか、それとも出雲さんの側にあるのかちょっと判断出来ないからなあ」
「しかし出雲君を引き留めに掛かるとは思われないだろう。元々出雲君を辞めさせる魂胆が土師尾常務にあって、それに積極的に賛成している訳じゃないけど、かと云って反対もしていないと云うのが、片久那制作部長のスタンスと云う事じゃなかったっけ?」
「まあ腹積りとしてはそんな辺りだとしても、それなら出雲さんの件は営業の責任者たる土師尾常務に総て一任で良い訳で、土壇場の今に及んで、態々その重苦しいげんなりするような現場に、自ら乗り込む必要なんかないだろう」
「それはそうだな。そこに態々行く片久那制作部長の目論見は何だろうな」
 均目さんは考える風に腕組みして小首を傾げるのでありました。
 袁満さんと日比課長がマップケースのこちら側に遣って来るのでありました。
「この期に及んで土師尾常務と片久那制作部長、それに社長の三人は出雲君と社長室で今更何を話し合う必要があるんだろう?」
 袁満さんも出雲さんは社長室に連れて行かれたと踏んでいるようでありました。
「まあ、会社を辞める理由とか経緯を少し詳しく訊いているんでしょうけどね」
 均目さんは土師尾常務と片久那制作部長、それに社長が一緒くたになって出雲さんの話しを聞いているような袁満さんの想像図に、片久那制作部長は立ち位置が二人とは少し違うんじゃないかと云う、今の今頑治さんと話していたところをまわりくどくて面倒臭いからかスッポリ端折って特に想像図中に再設定しようとしないのでありました。
「ところで日比課長は、出雲さんが辞めると云うのを既に知っていたんですよね?」
 均目さんが日比課長を座った儘見上げながら訊くのでありました。
「うん。電話を貰っていたから」
「別に引き留めはしなかったんですか?」
 均目さんは別に詰る心算は更々ないと云う気を遣った語調で訊くのでありました。
「まあ、このところずっと元気が無かったから、ひょっとしたら会社を辞める心算なのかなとは、ちょっと思っていたよ。それも無理も無いかとも考えていたし、敢えて引き留めるのも、別の意味で出雲君が可哀想かなとか云う気持ちもあったし」
「いざとなったら、日比さんは薄情だからねえ」
 袁満さんがぼやき口調で云うのでありました。
「別に薄情とかじゃなくて、この儘土師尾常務に露骨に意地悪をされながら、ネコに追い詰められた鼠みたいに居竦んでいるよりは、将来を考えると今の内に別天地を求めた方が幸せかも知れないと思うからだよ。出雲君は未だ若いから幾らでも潰しが利くし」
(続)
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