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あなたのとりこ 442 [あなたのとりこ 15 創作]

 頑治さんは出雲さんと土師尾常務を見送った後、倉庫に下りる前に編集部の方にある自分のデスクに発送指示書を持って一端行くのでありました。
「出雲君が会社を辞めるのか?」
 片久那制作部長が、自分のデスクに発送指示書を置いて座ろうとする頑治さんに訊くのでありました。と云う事は、出社して早々と云う事もあって、均目さんから出雲さんが会社を辞める決断を下したと云う件を未だ聞いてはいないのでありましょう。因みに那間裕子女史は例に依って多分朝寝坊で、未だその顔はこの場にはないのでありました。
「今、退職願いを出したようです。それで少しその件について話そうと云う事になって、土師尾常務と二人連れ立って外に出て行ったのです。行先は告げられていませんが、多分出雲さんは社長室に連れて行かれんじゃないですかね」
 頑治さんの説明を聞いて片久那制作部長は、ふうん、と云うように少し下唇を突きだして微かに頭を上下させて見せるのでありました。出雲さんに紹介した、自分の大学時代の友人で、静岡で広告代理店をやっていると云う人と出雲さんとの仕事の推移がどのようになっているのか、出雲さんの突然の仕事中段で、紹介した自分の顔が或いは潰されるような事がないのかどうか、その辺が気掛かりなのでもありましょう。
「出雲君が今朝辞表を出す事を、唐目君はもう知っていたのか?」
 片久那制作部長に聴かれて頑治さんは顔を向けるのでありました。
「知っていました。連休中に直接池袋で逢ってその件を聞きましたから」
「均目君も知っていたのか?」
 片久那制作部長は、今度は均目さんの方に目線を向けるのでありました。
「ええ。俺も別の日に逢いましたから」
「組合員は全員既知っていたんだな?」
「そうですね。先ず袁満さんと唐目君が聞いて、次の日に他の組合員も新宿に全員集合して、そこで出雲君から辞表を出すまでの経緯も含めてあれこれ直接聞きました」
 均目さんが連休中の出来事を説明するのでありました。
「ああそうか」
 片久那制作部長は頷くのでありました。それから少し考える風の面持ちをしていて、何やらやれやれと云った感じで億劫そうに立ち上がるのでありました。頑治さんも均目さんも片久那制作部長のそう云う動作を黙って見ているのでありました。
「ちょっと社長室に行ってくる」
 片久那制作部長は自席を離れようとするのでありました。
「社長室に行ったようだと云うのはあくまで自分の推察で、ひょっとしたらそうじゃなくて近くの喫茶店か何処かに行ったのかも知れませんよ」
 頑治さんが云い添えるのでありました。しかし片久那制作部長も出雲さんを伴った土師尾常務の行き先は社長室に違いないであろうと踏んでいるようでありました。
 片久那制作部長の姿がマップケースの向こうに消えると、頑治さんと均目さんは目を見交わして、互いに何となく困惑の表情を浮かべて見せるのでありました。
(続)
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