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あなたのとりこ 436 [あなたのとりこ 15 創作]

 均目さんが頑治さんの付き合いの悪さを当て擦って冷ややかな云い草をするのでありました。何だか頑治さんが自分の都合を何より優先させて、出雲さんの事をちっとも親身に考えていないところを皮肉っぽく責められているような具合であります。
 しかし実際、別に出雲さんの辞意を何が何でも翻させる気も無かったのなら、態々自分を今日ここに誘う必要は無かったのではないかと頑治さんは思うのでありました。頑治さんはもう既に昨日、池袋の喫茶店に出向いて出雲さんの辞意を直接確認したのでありましたし、結局今日も同じ事の繰り返しに過ぎなかったのでありますし。
「じゃあ、お言葉に甘えて俺はこれで帰るよ」
 頑治さんは均目さんに無愛想に云うのでありました。
「あたしも帰ろうかな」
 甲斐計子女史が頑治さんに倣うのでありました。
「甲斐さんはこれから何か用でもあるの?」
 袁満さんが訊くのでありました。
「別に用はないけど、飲み会なら遠慮したいと思って」
「甲斐さんは俺達より遅れて来て、こんな短い時間で帰ったら、何のために態々この新宿迄出て来たのは判らないじゃないの」
 袁満さんが引き留めにかかるのでありました。
「でも飲み会なら、飲めないあたしが参加するのもつまらないし」
「じゃあ、せめて食事の方だけでも一緒にどうかな?」
「そうねえ、・・・」
 甲斐計子女史は少し考える風に小首を傾げるのでありました。「じゃあ、食事だけ付き合おうかな。帰って夕食を拵えるのも面倒臭いし」
「唐目君も食事だけでも付き合わないの?」
 那間裕子女史が頑治さんに向かって聞くのでありました。
「ああ、俺は食事の方も遠慮しますよ」
「何だかさっさと帰りたいみたいね」
 那間裕子女史も頑治さんの付き合いの悪さをやんわり責めるのでありました。
「どうも済みません」
 頑治さんが素直に頭を下げるのはまごまごしていないで、こう云う言葉の遣り取りを早々に切り上げて、夕美さんの処へ早く行きたかったためでありました。
 頑治さんは自分の分のコーヒー代を均目さんに渡して、そそくさと店を出るために一階に向かう階段の方へこの場から歩み去るのでありました。何となくすげない風ではありますが、夕美さんと一緒に過ごす方がこの際優先であります。

 頑治さんは喫茶店を出ると寄席の末廣亭の前に急ぐのでありました。夕美さんとそこで待ち合わせを約していたのでありました。未だ夜席には時間がありましたけれど、予め決めていた夕美さんとの約束時間にはギリギリのところでありました。
(続)
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