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あなたのとりこ 435 [あなたのとりこ 15 創作]

「出雲君の辞意に対して、皆それを尊重すると云う事で良いのかな」
 均目さんが話しの筋道をやや戻すのでありました。
「辞めるか辞めないかは、あくまでも出雲君の自由意志だもの」
 那間裕子女史がここで原則論をものすのでありましたが、その言葉に、結局ここに集う意味は特に無かったと云う事じゃないかとの、無力感と云うのか徒労感と云うのか、そう云った遣る瀬無さを更に頑治さんは心の底で強めるのでありました。であるのなら、久し振りに実現した夕美さんとの一時を犠牲にした甲斐が無いと云うものであります。ここに集ったのは、出雲さんの辞意を覆させるためではなかったのではありませんか。
 まあ、何れにしてもこう云う話しの結論を見たのなら、この辺で会合を打ち切っても良いでありましょう。そう考えて頑治さんは内心ソワソワし出すのでありました。
「じゃあまあ、出雲君に関する話しはこれで済んだと云う事にして良いのかな」
 袁満さんが皆の顔を見渡すのでありました。
「まあ、仕方無いですかねえ」
 均目さんが何度か曖昧な頷きをするのでありました。
「どうも済みません」
 出雲さんが今日何度目かのお辞儀をするのでありました。
「じゃあこれにて散会としますかね」
 頑治さんが内心のソワソワをそれと判らないように言葉にするのでありました。
「でも折角甲斐さんも来て貰って組合員が全員揃ったんだから、皆で少し早めの夕食と、その後飲み会と云うのはどうかな。組合としての出雲君の送別会兼激励会として」
 均目さんが腕時計を見ながら、語調を先程迄とガラっと変えて朗らかに提案するのでありました。「未だ夕食には時間が早すぎるから、もう少しここで駄弁っているとして」
「ええと、・・・俺はちょっとこの後、野暮用があるんで、これで失礼したいんだけど。だからその食事会と酒宴に出席するのも、申し訳無いけど遠慮させて貰おうかな」
 頑治さんは均目さんの顔を済まなさそうな面持ちで眺めながら、辞退の言を弱々しい声でものすのでありました。これ以上は付き合っていられないと云うものであります。
「何、この後、朝の電話に出た彼女とデートでもあるの?」
 那間裕子女史がからかうような笑みを浮かべるのでありました。
「まあ、そのような、そのようでないような。・・・」
 頑治さんは意味不明な事を云って有耶無耶に応えるのでありました。
「ああ、デートなら引き留められないなあ」
 均目さんが肩を持つような那間裕子女史と同じにからかうような、どちらとも付かない事を云って頑治さんに笑いかけるのでありました。若しからかいの方だとしたらそのからかいに乗って色々云い訳めいた事やら、もっと思わせぶりな事を云って挑発的に対抗するのは得策ではないと判断して、頑治さんは無言で笑うだけにするのでありました。
「時間潰しに俺達はもう少しここで粘って、それから夕食に行く心算でいるけど、若し帰りたいのなら、唐目君はもうこれで帰っても構わないよ」
(続)
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