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あなたのとりこ 430 [あなたのとりこ 15 創作]

 要するに、まんまと那間裕子女史に押し出し強く、自分の気の弱さに付け込まれて仕舞ったような図でありますか。やれやれ。・・・
「遅れるのは構わないわ。兎に角こちらの人数が多い方が、出雲君に対して辞めないで欲しいと云う説得力が増すし、それが一番の狙いだからね」
「ああ成程。それはそうかな」
 またもや頑治さんは迂闊な科白をここで重ねて仕舞うのでありました。これで目出たく頑治さんが新宿の指定の喫茶店に行く事が決定されたと云う訳であります。
 頑治さんは那間裕子女史からの電話を切った後、面目無さそうな目をして横で成り行きを窺っていた夕美さんを上目遣いに見るのでありました。
「何だか話しの様子から、臨時の集まりがあって、そこに行く事になったみたいね」
 頑治さんは眉根を寄せて本意ではない事を表しながらも頷くのでありました。
「折角こうして久し振りに夕美と二渡で過ごしている最中だと云うのに、こう云う時に限って何だかんだと面倒臭いゴタゴタが起こって仕舞う」
「まあそれは巡り合わせみたいなもので、仕方が無いと云うしかないかしらね」
 夕美さんは、意ならずと云えども頑治さんが他の用事を作って仕舞った事に、残念さは見せるものの然程に怒ったり、臍を曲げて駄々を捏ねたりしないのでありました。
「何だか申し訳無いような心持ちがする」
 だから余計に夕美さんにそう云うしおらしいところを見せられると、頑治さんとしては済まなさに身の縮む思いがするのでありました。
「何時に出掛けるの?」
「一時に新宿の喫茶店で、と云う事らしい」
「ふうん。夕方には終わるのかしら」
「どんなに長くても、二時間は過ぎないんじゃないかな」
「だったらその後、新宿で待ち合わせして、映画でも観て、それから食事をすると云う事にしようか。何だか昨日と同じようなパターンだけど」
「申し訳無いけど結局そうなるなあ。二日連続で、こういう事で夕美との時間を邪魔されるとは夢にも考えなかったけど」
 頑治さんは悔しそうに舌打ちするのでありました。
「ああそうだ、これと云って観たい映画も無いから、末廣亭で落語でも聴く?」
「俺は何方でも構わない。夕美のお望み通りで」
「考えたら向うに帰ったら、演芸とか落語なんか滅多に観たり聞いたりしないからね」
「寄席見物なら池袋演芸場もあったし、昨日でも良かったかな」
「池袋なら水族館の方が興味としては寄席より優っていたのよ」
「ああ成程ね。夕美の中では、ウミガメは噺家に優る、と云う訳か」
「そうね。でももう少し正確に云うと、ウミガメとか水族館一般が噺家に勝ったと云う事じゃなくて、東京に居た頃に一度も行くチャンスがなかった、サンシャイン水族館、と云うトポスが噺家に優る、と云う事だけど、ま、それはこの際どうでも良いか」
(続)
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