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あなたのとりこ 424 [あなたのとりこ 15 創作]

「やれやれ、折角のんびりと朝寝を決め込もうと思っていたのに、早朝から妙な電話で意に反して早起きさせられて仕舞ったなあ」
 頑治さんは欠伸をするのでありました。
「そんなに早起きでも無いわよ」
 夕美さんが枕元の目覚まし時計を手に取って、先ず自分が文字盤を凝視してから頑治さんの顔の前に近付けるのでありました。時計の針は九時を少し過ぎたあたりを指しているのでありました。これは成程、全く早朝と云うのではない訳であります。
「まだ起きないの?」
 頑治さが再びごろんと布団の上に寝そべるのを見て、今度は夕美さんが片肘をついて上体を少し起こしてから云うのでありました。
「寝ようと思えば幾らでも寝る事も出来そうだけど、この儘惰眠を貪ると云うのも勿体無いと云えば勿体無いか。折角夕美と一緒に居ると云うのに」
「あたしは別にこの儘惰眠の方でも構わないけど」
 夕美さんはそう云いながら、少しだけ起こした上体を頑治さんの上にかぶせるようにしながら抱きついてくるのでありました。
「じゃあ、もう少し布団の中でのほほんと時間を潰しているかな」
 頑治さんはその夕美さんを抱き竦めながら返すのでありました。

 暫く二人抱き合ってうつらうつらしていると、そこにまた電話が無粋な呼び出し音を無遠慮に響かせるのでありました。頑治さんは舌打ちしてまた受話器を竟、無造作に架台から外して仕舞うのでありました。その後で、ああそうか、無視して電話に出ないと云う手もあったかとも考えるのでありましたが、しかしもう手遅れと云うものであります。
「ああ唐目君、出雲君の事だけど、・・・」
 今度は那間裕子女史の声が聞こえて来るのでありました。「昨日池袋の喫茶店で逢ったと云う事だけど、どんな感じだったかちょっと訊こうと思って電話したのよ」
「那間さんには矢張り、袁満さんから電話があったんですか?」
「ええと、まあそう云うところだけど。・・・」
 頑治さんが訊くと那間裕子女史は何故か少し云い淀むでありました。「結局出雲君の、会社を辞めると云う決心は覆らないような感じだったのかしら?」
「そうですね。決心は固そうでしたね」
 頑治さんはそう応えながら、那間裕子女史は何で今云い淀んだのだろうと考えるのでありました。ひょっとしたら袁満さんの電話でその事を知ったのではなく、今し方均目さんから聞いたのではないでありましょうか。それも電話ではなく直接に。
 まあそれは当面どうでも良い事でありますが、しかしあの朝寝坊にかけては人後に落ちない那間裕子女史が、こんな時間に均目さんの電話に続いてすぐに頑治さんに電話をかけてくると云うのは、まあ、腑に落ちないと云えば腑に落ちない仕業でありますか。電話をかけるにしても、もう一眠りした後でならば未だ納得も出来ると云うものであります。
(続)
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